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第10Q

「暫く家空ける…戸締り、ちゃんとしとけ」
「…」


バタンと玄関の閉まる音が虚しく響く。
私はその音を聞きながら動く事も出来ずにただ天井を見上げていた。
ベッドを出て私を見下ろした大輝は一瞬顔を歪めてから私に布団を掛けて背を向けた。
あの表情はどういう意味?
瞬きをすれば涙が伝う。
「体、いったぁ…」
痛む体をもそもそと動かしてとりあえず下着を探す。
近場には見つからなくて苦笑いだ。
そういえば着ていた物は全部放り投げられてたっけ。
ベッドからだいぶ離れた所にやっとパンツを見つけて取りに行こうとしたら、シーツが足に絡んで頭からズルっと床に落ちた。
散々だ。
「痛い…」
体も心もどこもかしこも痛い。
床に横になったまま自分の体を抱き締める。
シャラ…
首に下げられた最早聞き慣れたはずのチェーンの音がやけに耳に残る。
リングをぎゅっと握り締めればいつもよりずっと冷たく感じた。
パタパタと涙が床に滴り落ちる。
悪いのは私だ。
大輝も涼太も悪くない。
私が涼太の気持ちを知っていながら軽率過ぎたんだ。
大輝が怒るのは当然だ。
だけど…
初めて乱暴に扱われた。
初めてキスもしなかった。
初めて気持ちを伝え合わなかった。
初めて顔も見せてくれなかった。
初めて、大輝の何一つ…感じられなかった。
でも、当然だ。
力尽きた私は涙を拭う事もせずそのままそっと目を閉じた。


目が覚めた時には翌日の昼過ぎになっていた。
喉はカラカラ、化粧はドロドロ、涙が乾いて頬はパリパリ…酷い有り様だ。
そしてシーツ1枚で床に寝てしまった私の体は、最早痛みの感覚しかない程ボロボロだった。
なんとか這い蹲って体を立たせようとしたら、物凄い激痛が下腹部を襲ってベッドに雪崩れ込む事になった。
視界に入った自分の手首は事件性を感じるくらいに鬱血してる。
これが首なんかにあったら完全にアレだ。
項の辺りもなんだかピリピリと痛む。
きっと血が出てるんだろう。
ああ、とにかく全身が痛い。
「…これは、休むしかないかな」
今日の講義は2つ。
運良くバイトは無い。
ベッドに丸まって1日をやり過ごす事に決めた。
『暫く家空ける』
大輝の寂しそうな声が思い出された。
ここには帰って来てくれないって事だ。
暫くってどのくらい?
何処に行くの?
練習は?
ご飯は?
…いつかは帰って来てくれるの?
大輝が物凄い嫉妬深いって分かってたのに、私が涼太の事を気にし過ぎたのがきっといけなかった。
まさかこんな事になるなんて思ってもみなかったけど。
こんなシリアスな展開、誰が予想出来ただろうか。
思い返せばよく分からない違和感を感じ始めたのも涼太が怪我をしてからだったかもしれない。
2人の様子もちょっとおかしかったしそれを知ってて私が軽率過ぎたんだ。
何があったかなんて問い質したりしないから…
帰って来てよ、大輝。
いつものベッドが酷く広く感じて不安を募らせた。
痛む体を丸めて自分を抱き締めて、大輝を想った。


「ごめんね、大輝…早く帰って来て」

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