unstoppable番外編 | ナノ

番外編5-桐皇にて-

「やっぱ無理がある」
「あ?へーきだろ」


何が無理があるかって…
私が桐皇の制服を来て学園に紛れ込んでいるって事がまずそうなんだけど。
「このセーターの胸の弛みは何っ!?」
「あ?聞くまでもねーだろ。巨乳と貧乳の差だろって、ぅぐはっ!」
大輝の脇腹に肘鉄を食らわせて自分の胸を見下ろす。
うん残念、分かってる。
今私は大輝の幼馴染、つまりさつきちゃんに制服一式を借りて身に纏っている。
さつきちゃんサイズに繊維が伸びたセーターは胸元が不自然にパカパカしていた。
あんな爆弾持ってる子が珍しいんだ。
私は悪くない。
さつきちゃんも悪くない。
凄くいい子だったし。
『名前さん!はじめまして!桃井さつきですっ』
『さつきちゃん!はじめまして!』
『青峰くんと付き合ってくれてるなんて!神様の様な方ですぅっ』
『えっ!?か、神様…』
『はい!ありがとうございます!青峰くんを好きになって下さって』
『え、ええ!?なんかちょっとそれ恥ずかしいんだけど』
『今の青峰くんがあるのは名前さんのおかげだって、テツくんから聞いて』
『いや、あの、大袈裟だよ』
『大袈裟なんかじゃないです!私、本当に嬉しくって…う、だってあの青峰くんがっ』
『ええ!?ちょっと!さつきちゃん!?』
…そういえば突然泣き出した彼女を宥めたんだっけ。
とりあえず異常な程感謝されてるみたい。
幼馴染、か。
やっぱり特別なんだろうな。
小さい頃からずっと一緒に居るわけだし、まだ出会ったばっかりの私とは違って…
そこまで考えてハッとした。
うわ、私今さつきちゃんに嫉妬してた。
ブンブンと頭を振っていると、肘鉄から復活した大輝が私の手を掴んだ。
「何すんだよ、この凶暴女」
「…当然の報いだ」
「別に貧乳が悪いとか言ってねーだろ」
「ふんだ」
「おら、何処行きてーんだよ」
「…屋上」
「あ?屋上だぁ?」
もし桐皇に行けるなら屋上に行きたいってずっと思ってた。
それは大輝にとって馴染みのある場所だからか、もしかしたらここは常に大輝の葛藤の場所だったかもしれないって思いがあったからか。
とにかく大輝の思い入れのありそうな場所を訪れて見たかったんだ。
キィ…
小さな音を立てて屋上へ続く扉が開く。
視界いっぱいに青空が広がった。
「んー!いいね、屋上!」
「だろ?最高のサボり場所」
「…だろうねー、サボり魔くん」
「んだよ。つかもう暫く来てねーし。久しぶりだな、ここも」
「ここでエロ本読んだりさつきちゃんのパンツ覗いたりしてたんでしょ」
「!?…んな事するかよ」
「っぷ、目が泳いでるし」
「るせー」
「…どうせ若返るなら大輝と同じ歳が良かったかなー」
「あ?」
「大輝と登校したり勉強したりサボったりさ」
「サボんのかよ」
「あはは!あ、ここ」
「上りてーのか?」
「うん!」
「しょーがねーな」
大輝は給水塔に掛けられた梯子を軽々と駆け上がって振り返り、上から私に手を差し出した。
その手を取って梯子に足を掛ければ、ひょいと引っ張られてあっという間に辿り着く。
「うわ…空が近い!見晴らしもいいね」
「だろ?ここの昼寝はサイコ―だぜ」
「転がりたい!けど人様の制服汚せないし我慢!」
「あ?いんじゃね?さつきだし」
「コラ!駄目です」
「んじゃー…ほい」
「え?」
突然大輝が私の横に胡坐をかいて座り、スカートの裾を引っ張った。
首を傾げてると自分の足の上を指差した。
『ここに来い』って事らしい。
「突っ立ってるとスカート捲んぞ」
「…なんの脅しだ、なんの」
変態発言をかましながら、今度は腿をパシパシと叩いて早く座れと促す。
ここが学校だって事を妙に意識してしまって、いつもはすんなり出来るんだけどなんだか恥ずかしい。
恥ずかしさを誤魔化そうと、思いっきり弾みを付けてドシンと座れば頭を叩かれた。
ちょっと、扱い酷い。
「…後で倍返し」
「はっ!やれるもんならな」
そう言いながら私を包む様に回された手に手を重ね、そのまま大輝に体重を預けた。
顔を少し傾ければすぐ近くに大輝の顔。
なんだか満足そうに笑ってる。
無駄にドキドキするからそういう表情止めて欲しい。
「そのまま俺の腕掴んどけよ?」
なんで?と聞き返す間にグラっと体が後ろに倒れる感覚。
「うえっ!?」
なんて変な声が出た頃には、私の目の前には青くて広い空が広がっていた。
うわ…すっごい綺麗。
暫く魅入っていれば頭の少し上から重低音が響いた。
「どーよ。屋上サボりも捨てたもんじゃねーだろ」
「うん。推進しちゃいけないんだけど…これは綺麗」
「しかもこれなら汚れねーだろ」
服が汚れるのを気にしてた私を大輝なりに気遣ってくれたらしい。
まったく、ぶっきら棒に優しいんだから。
「…大輝、お布団みたい」
「あ?イタズラすんぞコラ」
「あはは!お布団は動きませーん」
「ふんっ俺はすげえハイテク布団なんだよっ」
「何それ、あはは!は?ちょ、擽んの止めてっふは!!」
「お仕置きだっ」
「ぎゃ!ひゃはははっ!も、ギブ!ギブギブ!!ちょっ」
「うぉっ!あっぶね」
暴れてゴロンと落ちそうになった私を大輝がしっかりと受け止める。
大輝の上で俯せになった私は向き合った形のまま抱き締められた。
触れ合うお互いの体からドクンドクンという心臓の音がダイレクトに伝わる。
少し顔を起こせば、すぐに大輝と目が合った。
「名前」
「ん?」
「もっとペチャンコになんぞ」
「なっ!」
「くはは!ジョーダンだっつの」
「冗談にならない!」
「名前」
「もう!何!!」
「キス」
「!」
「お前からして」
「や、やだ」
「制服でこんな体勢とか超萌える」
「変態」
「そんなの今更だろ」
「開き直った」
「いーから早く」
「もう…」
少し体を浮かせて跨り、大輝の顔の両サイドに手を着いた。
この体勢恥ずかし過ぎる。
あまりの羞恥にぎゅっと一瞬目を瞑ると、大輝の手が私の髪をそっと耳に掛けた。
耳に手が触れただけでゾクゾクしてしまうとか私結構重症だ。
その手はゆっくりと私の後頭部に回って私を引き寄せる。
ああ、空気が甘い。
甘過ぎて融けてしまいそうだ。
まるでファーストキスでもするみたい、だなんて思いながらそっと目を閉じた。


「…一発やってくか」
「最低!雰囲気ぶち壊し!!」

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