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番外編2-黒子回想-

僕は生まれて初めて
    『恋』をしました。

勿論、大好きなバスケに夢中になっていた僕に『恋』なんて物は未知の世界で…
まさか異世界に落とされて出会った女性に恋をしてしまうなんて思いもしなかった。
異世界に飛ばされるという事自体が驚きだったけれど、それ以上に衝撃的だった…奏さんとの出会い。

『…ここは、いったい』
『ん?誰?…え?は!?』
『え…』
『くっ黒子テツヤぁぁあ!?』
『は、はい。僕は黒子テツヤです』
『ななななんでキミがこんな所に!?って本物!?コスプレ!?いやコスにしちゃ出来過ぎて…え!どうしよう!!』
『あ、あの…』
『私!私遠山奏!っとりあえずお家どうぞ!!』
彼女は突然現れた僕に凄く色々良くしてくれた。
僕がこの世界でどんな存在なのか、僕を混乱させない様にゆっくり丁寧に教えてくれた。
動揺はしたけれど彼女のおかげで酷く取り乱したりなんていう事はなかった。
それから、奏さんは僕の存在する世界の中で僕が一番好きなんだと言ってくれた。
事ある毎にそう言われて凄く恥ずかしかったけれど、それが本心だと分かるくらいまっすぐ言ってくれるから僕は本当に嬉しかった。
僕も言葉にして奏さんの事を『好き』と言いたい。
日を追う毎にどんどんどんどん好きになった。
僕も奏さんが大好きだ。
伝えたい、伝えたい。
でもいつしかそこには葛藤が生じた。
僕はきっといつか元の世界に戻る。
その確信染みた思いが邪魔をした。
ただの臆病者だ。
だけど、そんな思いを青峰くんが晴らしてくれた。
青峰くんも、居候先の名前さんを凄く大切に思っていた。
僕もあんな風に感情を表に曝け出して、思いを伝えて、毎日毎日奏さんを笑顔にしてあげたい。
『辛気くせえなぁ、お前ら』
『そんなの関係ねーだろ』
『いちいちグダグダ考えてねーでよ、言っちまえばいいんだよ』
『俺はこれっぽっちも後悔なんかしてねーぞ』
『いつだか分からねー先の事でウジウジしてたらよ、時間が勿体ねーと思わねぇ?好きなら好きで自分のしたいようにがつがつ行けばいーんだよ、バァカ』
僕は強い貴方が羨ましかったです、青峰くん。
貴方のおかげで僕は、まっすぐに思いを伝える事が出来ました。
『へっ、いい目してんじゃねーか、テツ』
青峰くんのおかげです。
ありがとうございます。


奏さんとの別れは突然だった。
僕はいつもの様に奏さんと手を繋いで眠りについたはずだった。
けれど目が覚めたらそこは、最早懐かしいとさえ感じる自分の部屋だった。
そして横から視線を感じて視線を動かすと、赤司くんが僕を覗き込んでいた。
『おかえり、テツヤ』
『!?』
僕が何も言わなくても赤司くんには分かっていたのだろうか。
日付を尋ねれば、僕がここから消えたその日のまま。
数時間が経過していただけ。
自分の震える手を握り締めて、ギュっと目を瞑った。
思い浮かぶのは楽しそうに微笑む奏さん。
目の奥が熱くなった。
赤司くんは何も聞かずに、茫然とする僕の肩をポンポンと叩いて背を向けた。
『テツヤ…ゆっくり休め』
『っ、ありがとう、っございます』
パタンとドアの閉まる音を聞いた瞬間、目の奥の熱い物が一気に溢れ出した。
「奏っさ、んっ」
貴女に、会いたいです。


1週間程経った頃、僕は桐皇学園を訪れていた。
桃井さんから何度か連絡を受けていて、青峰くんの様子が気になっていたから。
青峰くんとはあれ以来連絡を取れなくなっていた。
桃井さんによれば、学校には行っているものの部活には一切顔を出さなくなったのだという。
彼女は、今まで以上に気力を失くしてしまった青峰くんを見ているのは辛いと悲しんでいた。
「…青峰くん」
「!!…テツか」
「お久しぶりです。部活、行かないんですか?」
「…さつきになんか言われたのか」
「少し、話しませんか?」
マジバでシェイクを頼んで窓際のカウンター席に座った。
青峰くんは何も頼まず、テーブルに肘をついてボーっと外を見ている。
そっと水を差し出せば一度視線を寄越してから、『ワリィ』と言ってまた外に目をやった。
「青峰くん」
「んだよ」
「…ずっとそのままでいるつもりなんですか?」
「テツには関係ねーだろ」
「あります」
「何処にあんだよ」
「こんな青峰くんを見たら名前さんは悲しみます」
「っ!その名前、出すんじゃねーよ」
「名前さんは以前言っていました」
「黙れ…」
「いいえ、黙りません」
「黙れよ…」
「名前さんは、っ」
「黙れっつってんだよ!テツ!!」
ガタンと大きな音を立てて勢いよく椅子が倒れる。
青峰くんの手が僕の胸ぐらを力一杯掴み上げていた。
その手は震えている。
周りの人たちがざわついているけれど、僕は今青峰くんに伝えなきゃならない。
「青峰くんの笑顔が好きだと言っていました」
「っ…」
「青峰くんが楽しそうにバスケをする姿を見ると幸せだなって思うと、そう言っていました」
「…」
「笑っている青峰くんを見て、こう言っていました」
『こんな表情見せてくれるんだもん。考えたくないけど、もし元の世界に帰っても大輝ならきっと大丈夫。つまらないと思ってるバスケも、これからきっと絶対楽しくなる』
「名前さんの予想、外させる気ですか?」
青峰くんの手の力が緩んでゆっくりと足の裏が地面に着いた。
片手で顔を覆って表情は読み取れない、けれど。
「……お節介なんだよ、ったく。お前も、名前もな」
「青峰くん…」
「テツ。お前俺の居ないとこで何名前と2人で喋ってんだよ」
「?」
「お前には奏さんが居て、名前は俺のもんだろーが」
「!青峰くん!!」
「ったく勝手な事言いやがって…大丈夫だとか、俺の事誰だと思ってんだよあのバカ」
「ふふ」
「しょうがねえから、叶えてやっか…あー、めんどくせーな」
「顔が笑ってますよ、青峰くん」
「っるせーよ。テツも相棒に言っとけ…あんま俺をガッカリさせんなよってな」
「はい!!」

奏さん、名前さん。
僕たちは進み続けます。
止まる事なんてしない。
止まる事なんて知らなくていい。
いつかまた会えると願って、
僕たちは前を向いて進み続ける。


「ったく。俺の周りはお節介なヤツばっかで嫌んなるぜ」
「ちっとも嫌そうな顔じゃないです」

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