unstoppable番外編 | ナノ

番外編1-黄瀬回想-

忘れもしない、一瞬で『堕ちた』ようなあの感覚。
『恋』と呼べるのかさえ分からないあの瞬間芽生えた、俺のこの思いは叶う事はない。
中学時代からそうだった。
青峰っちに勝てた事は一度もない。
ま、それはバスケの話ッスけど。
もし先に飛ばされたのが俺だったら、名前っちに最初に拾われたのが俺だったら…名前っちは俺の事を見てくれただろうか?
分かってる、答えは否だ。
女の子は沢山見てきたし自分から行かなくても向こうから寄ってきた。
写真を見ただけで女の子にこんなにドキドキした事なんて無かった。
そんな俺が気になった女の子。
笑顔が凄く印象的。
実際に出会ってみれば、気さくで明るくて優しくて楽しくて…多分、いやきっと俺は彼女が大好きだった。
だけどその笑顔の向く先はやっぱり俺じゃなくて…


俺が元の世界に戻ってすぐ…
青峰っちが戻って来た。
名前っちの事を思って胸が軋んだ。

『青峰っち!!黒子っち!!』
『青峰だと?黒子もか…お前たち何処で何をしてっ…寝ているのか』
『なんで皆地べたで寝てんのー?意味分かんないんだけど』
『涼太、大輝とテツヤはキミと同じ場所から戻って来たという事でいいのかな』
『…そうッス、多分』
『なんで黄瀬ちんがそんな顔してんのー?』
『だ、だって!!…なんで、戻って来ちゃったんスか、青峰っち…』
『涼太に記憶があるという事は、きっと大輝やテツヤにも残っているんだろうね』
『えー、夢でも見てたんじゃないのー?』
『同感だ。そんな非現実的な事俺は信じん』
『緑間っち酷いッス!!青峰っちの前で絶対そんな事言わないで下さいッス!!』
『黄瀬ちんなんか暑苦しー』
『よせ敦。涼太も何か思う所があるんだろう』
『っう』
『あ、青峰っち!!』
『…は?黄瀬?』
『おかえり、大輝』
『赤司?……!!名前!名前は!!』
『名前?誰なのだよ』
『あー、写真のコじゃないのー?』
『っんでだよ!!くっそ!!…名前っ』
『…大輝。なんだか、いい顔になって帰って来たね』
『意味ねーよ、アイツが居なきゃ…』

そう呟いた青峰っちの顔は、全てに絶望した様な…そう、まるで才能が開花してしまったあの頃の様な顔をしてた。
俺は未だに『非現実的だ』と呆れたような顔をしている緑間っちをキッと睨み付けてから、茫然と座り込んでいる青峰っちに駆け寄った。
「…青峰っち?」
「…」
「青峰っち!!」
「…あ?」
「青峰っち…その…」
「んだよ」
「全部、覚えてるッスよね?」
「ハッ…何、言ってんだ」
「忘れてないッスよね?」
「…」
「今までの事、全部っ」
「…忘れられるわけ、ねーだろ…バカかてめえは」
「っ、なんでっこんな事に!」
「っるせーよ!!…んなもん、こっちが聞きてえっつの」
青峰っちは頭を抱えて項垂れた。
その姿に覇気は無い。
当たり前ッスよね…大切な人と、突然離れ離れになっちゃったんスから。
青峰っちのあまりの沈み様に誰も一言も発しなくなった。
暫くの沈黙の後、
「残念だがまたの機会にしよう。今日の所は解散だ」
赤司っちの一声で皆がぞろぞろ動き始める。
まだ目を覚まさない黒子っちを紫原っちが面倒臭そうに背負った。
赤司っちと一緒に送り届けてくれるらしい。
俺は…
「…名前」
項垂れたまま彼女の名前をボソリと呟く青峰っちに目をやる。
その顔は手で覆われていて表情は読み取れない。
顎を伝って地面に落ちた水滴は、見ないフリをした。


青峰っちのこんな姿見たくねぇッスよ
名前っち…

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