「ただいまー、…あ」
またやってしまった。
実家にいる時の癖でついいつも『ただいま』って言ってしまう。
言った所で返事もないしそもそも大抵は誰も居ないんだけど。
「…お疲れ」
「え」
リビングの方から声がした。
青峰くんだ。
今…『お疲れ』って言った。
「お、お疲れ様」
「…おー」
パラパラと雑誌を捲りながらソファに背を預けていた青峰くんが私に視線を合わせて来た。
「…」
「?」
「こないだの飯」
「あ…うん」
「サンキュ」
「…どういたしまして」
こないだの飯とは多分真太郎が来た日の夕飯の事だろう。
直ぐに目を逸らして立ち上がり部屋に向かう青峰くん。
…ま、まさかね?
お礼言う為にここで待ってたとか…そ、そんな事あるわけないか。
自己完結してみるもどうにも彼の意外な行動が気になって仕方なかった。
やっぱり意外と義理堅いというか律儀な人なんじゃ…
なんて思いながらうがいと手洗いを済ませて水でも飲もうと冷蔵庫を開ける。
「…あれ」
デジャヴか。
こないだより小ぶりなものの如何にもスイーツが入っていそうな白い箱。
まっさかねぇ?
水を取り出して冷蔵庫をパタンと閉めた。
「それ、お前んだから」
「!!」
突然の声。
驚いて声のした方に振り返ると、部屋のドアから顔だけ出した青峰くんがこっちを見ていた。
い、いつからそこに…。
「私の?」
「いいから暇な時食え」
バタン。
めんどくさそうにそう言って部屋に籠ってしまった。
くれるというのなら遠慮なく貰うけど。
私に女子力なんてこれっぽっちも無いけどスイーツは大好きだ。
再び冷蔵庫を開けて白い箱を取り出す。
開けてみればそこにはカラフルなマカロンが5つ入っていた。
「っぶ、ふ、ふふっ」
女の子から貰った物かもしれないし買ったのかもしれないし、どうやって調達したのかは分からないけど…もしコレを青峰くん本人がお店で買ったのだとしたら。
ミスマッチ過ぎて笑えて来た。
失礼だよなと思いながらも笑いを堪える事は出来なかった。
「マジかよ!」
「って思うよね」
「青峰の皮を被った偽者だな」
「ぶっ!真ちゃん真顔でそんな事言うなよ」
「若しくは…そうやって女の気を引いて来たのかもれないのだよ」
「「…ああ〜」」
ちょっと違う気もするけど半分納得。
女の子は喜ぶと思う。
でもやっぱそんなタイプには見えないな、失礼ながら。
今日は天気がいいので中庭でランチを済ませた。
次の講義までここで3人で時間を潰す事になっている。
「で?今日はその1コをおやつに持って来たってわけ?」
「そーです!美味しいんだコレが」
「名前、顔が崩れているのだよ」
「いいのいいの。いただきますっ、んむんむ…おいし」
「んと美味そうに食うよなぁ」
「だって美味しいし…ん?あ…」
「何?どったの?」
マカロンを口に頬張ってモグモグしていると数メートル先から視線。
…青峰くんだった。
すんごい顔して食べてたの、見られた…。
「ん?誰かいんの?」
高尾と真太郎が振り返った時にはもう青峰くんの姿は見えなくなっていた。
構内で会うのは初めてかもしれない。
「いや、人違い」
なんで誤魔化したかは分からない。
とりあえず帰ったらちゃんとお礼言わなきゃだ。
そういえば最近彼女見てないな
まあ、私には関係ないけど
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