「名前はさ、居ないの?好きな人」
「居ないね〜、残念ながら」
「えー?居るでしょ?」
「ていうか周りにイケメンがいるじゃん」
「そうそう!緑間くんと高尾くんね」
「いやー、あの2人は友達だよ」
ランチをしながら女友達で話す事と言えばだいたいこれだ。
私以外の2人はキャピキャピと楽しそうに恋だなんだの話をする。
正直私が出せる話題なんて無くていつも聞き役に徹しているのだけど今日は別だった。
やっぱり大学でも真太郎と高尾は目立つ。
そこに私が一緒に居るものだから妙な勘違いが生まれるのは仕方がない事なのかな。
「あんなイケメン侍らせて羨ましい!」
「でも当の本人が恋愛に興味無しじゃねえ」
「名前普通に可愛いのに勿体ない」
「可愛くもないし勿体なくもないから」
「でもどうするの?緑間くんとかに突然告られたら!」
「いや、ないない。私多分妹とか後輩とか、そんな感じで見られてるし」
「名前、今は兄妹も何も最早壁にならない時代なのだよ」
「…そんな時代嫌ですけど」
着いて行けないとちょっと離脱して飲み物を口に含んでいると後ろの席の話が耳に入って来た。
「ホントかっこいいの」
「いいなぁ、羨ましい」
「でしょ〜」
「あんたたち並んだらホントお似合い!」
「でしょでしょ〜」
「結婚までいっちゃったりして?」
「うーん、でも大輝くんモテるから心配なんだよね〜」
!
ちょっと…『大輝くん』ってもしかして。
しかもこの声…
こんな所でも遭遇するなんて。
私と背中合わせに座っている人物は青峰くんの彼女だった。
世間狭過ぎだよ。
気にしなければ聞こえないくらいの音量なのに一度聞いてしまったからか内容を把握しようと働く自分の耳が憎らしい。
「で、昨日はどうだったの?」
「ん?それは秘密」
「えー!教えてよ〜」
「ちょっと言えないかなぁ」
「何それ!益々聞きたい!」
「部屋には行ったよ」
「え!いきなり部屋!?」
「すっごいお洒落な家でね、もうホントかっこいい」
「そっか。独り暮らしなんだっけ」
「うん。でももう1人一緒に住んでるみたいなんだよね」
「そうなの?兄弟?」
「違う違う。シェアハウスらしいよ」
「へぇ」
「もう1人もイケメンだったらどうしよ!」
「どうしよって何!?」
「イケメンなら会ってみたいな」
「ちょっと!青峰くんだけでも十分でしょ」
「でももしもっとかっこいい人だったら?」
「乗り換える気?そんな事考えるのあんたくらいだよ」
「あははっ」
うっげぇ。
最低女。
悪いけどもう1人の住人は女ですよ。
イケメンじゃなくて残念ですね。
青峰くんも可哀想に、こんな女に捕まって。
って私には関係ないけど。
「名前、どうしたの?」
「え?」
「顔引き攣ってるよ、ていうか怖い」
「あー、はは。ちょっと考え事」
「大丈夫?」
「平気平気!」
「そう?ああ、それでさ!こないだの事なんだけどね」
危ない危ない。
嫌悪が顔に全部出ちゃってたか。
とにかく私には関係ない事だから。
今の世の中、男も男だけど、女も大概だな。
平和に大学生活を終えられればいい
色恋沙汰なんて私には不要だ
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