目が覚めた。
突然だ。
肩口が冷えて身震いする。
だけど体はすっぽりと包まれて酷く温かかった。
ん?肩が冷える?
「!」
肩に手をやろうとして動けない事に気付く。
私の体は青峰くんの大きな体に包まれていた。
しかも昨日のまま、つまり…すっぽんぽん、だ。
青峰くんの体が、肌が直に触れている。
昨日の事を思い出して全身が熱くなった。
モソモソと動いて抜け出そうとすれば案の定回された腕に力が入り、足が動いて絡み付いて来る。
さっきよりも更に身体が密着して熱が暴発しそうだ。
そうやって青峰くんが大きく動いたせいで私の顔は掛けられたタオルケットに埋もれた。
「…あれ」
そして気付いた。
このタオルケット、私のだ。
青峰くんに拉致されたままのタオルケット。
それは以前までは私の物だったはずなのにすっかり青峰くんの匂いが染みついて、なんだか青峰くんの物になってしまった様。
『ッ、もうお前、俺のもんな』
変な事考えたせいで昨日の言葉を思い出してしまった。
低く掠れた、色気のある声で囁かれた言葉。
ただでさえ熱い体が更にカッとなった。
瞬間、思わず私は青峰くんの腕と足を渾身の力で払い除けて形振り構わずガバッと起き上がる。
腰と下腹部の違和感に顔を歪めた。
「ちょ、腰!痛い!」
「…ん……名前…」
「!?」
起こしてしまったのかと思ったけど動く気配は無い。
寝惚けているのか、青峰くんから漏れた言葉に私は大袈裟に反応した。
いつも『お前』呼びで苗字でだって呼ばないのに…今、名前呼んだ。
恐る恐る振り向いたらやっぱりまだ夢の中らしい青峰くんはグーグーと寝息を立てていた。
そして私が起き上がったせいでタオルケットが捲れ上がり、青峰くんの裸体が晒されている事に気付いて慌てて掛け直した。
床に投げ捨てられた自分の服を掻き集めて急いで部屋を出る。
その場で悠長に着替えてる余裕なんて無かった。
自室に戻り着替えを取ってから逃げ込む様にお風呂場に入った。
シャワーを全開にして熱くなったお湯を頭から浴びる。
私の体には青峰くんの熱い手の感触がしっかりと残っていて、どんなに洗い流しても消し去る事なんて出来なかった。
湯船に浸かっているわけでもないというのに羞恥で逆上せてしまいそうだ。
急いで髪を洗って全身を洗い流し、部屋着に着替えて自室に駆け込んだ。
『名前、久しぶりだな』
「お兄ちゃん、久しぶり、元気?」
『勿論。電話なんて珍しいな、何かあった?』
私はお兄ちゃんに電話をしていた。
葵さんという可愛らしい奥さんと実家で暮らしている幸せいっぱいの兄だ。
何故突然電話したかというと
「少しの間さ、泊めて欲しいんだけど」
『それは全然かまわないけど…なんだよ急に』
「いやー、ちょっとね。でも特に何があったってわけじゃないから安心してよ」
『そうか?ま、いいよ。来るならおいで』
特に何があったってわけじゃない、なんて大嘘…問題大有りだ。
今の私は青峰くんの顔見て正常で居られる自信がない。
だから落ち着くまで避難する事にしたのだ。
私は早速、数日分の荷物を持ってこっそり家を抜け出した。
お兄ちゃんと葵さんは何も聞かずに私を家に招き入れてくれた。
葵さんが『この家は名前ちゃんの家でもあるんだから、いつでも帰って来ていいんだよ』って言ってくれたから嬉しくてなんだか泣きそうになった。
ずっと使っていた自分の部屋に荷物を置きベッドにゴロンと横になる。
あの家に馴染んでしまった私の体は、長年使い続けたこのベッドを何処か他人のもののように感じてしまった。
大学も夏休みだしバイトも連休、少しの間だけど青峰くんに顔を合わせる事は無い。
あーもう、青峰くんって名前を思い浮かべただけで私の体は動揺する。
身体を重ねてしまった事に後悔はしていないけど、自覚したばかりだった自分の気持ちを言えなかった事、青峰くんが欲しい言葉を言ってくれなかった事が私を苦しくさせた。
ああ面倒な女だ私は。
…ちゃんと、考えよう。
女々しい私は多分ただ言葉が欲しいだけ
逃がさないとかそういうんじゃない、言葉
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