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笑え

昨日みたいに近付いて来た青峰くんの顔を下を向く事で避けた。
でも回避したはずだったのに…身を屈めてこめかみに口付けて来るからビクリと身体が震えた。
「引っ越し代、バカんなんねーだろ」
「…貯金、あるし」
「バイトはこっからのが断然近いぜ?」
「…通える距離だし」
「お前…ここに住むの嫌なのかよ」
「!」
「嫌だっつっても、逃がさねーけどな」
最早何度聞いたか分からない台詞を低い声で囁かれて、とうとう私は本音を漏らした。
と同時に青峰くんとの言葉の応酬が始まる。
恥ずかしい恥ずかしい消えたいもう今すぐ消えたい。
もう隠し様も無い、こんなのただの…嫉妬だ。
「あ、青峰くん、女遊びばっかしてるでしょ」
「はぁ?してねーよ」
「とっかえひっかえ付き合ってたし」
「付き合ってねーよ!付き合うなんて誰にも一言も言った事ねえし!」
「そ、そんな事信じられるわけない」
「なんもしなくても向こうから寄って来るだけだ」
「…腹立たしい」
「女が勝手に勘違いしてんだろ」
「家にまで呼んでおいて?」
「誰が呼ぶかよ、勝手に家まで引っ付いて来たんだって」
「う、嘘!ていうかそんな子とキスしたり変な事したりッ」
「はぁ!?変な事ってなんだよ、セックスか?つーか、本番とかした事ねーし」
「ううう嘘だ!玄関でキスだってしてたし」
「キスもねーよ…つか見てたのかよ」
「あれはしてた!どう見ても!」
「してねーよ、寸でで避けた」
「信じられるか!だいたい私現場見ちゃったし!裸であんなッ」
「ああ、あれは…すげえ勢いでいきなりはっ倒されて脱がされて首吸ってくんだぜ?女の馬鹿力舐めてたわ」
「信じない信じない信じない」
「じゃあどうやったら信じんだよ!あれは拒否ったら勝手にキレて出てって終わり、そんだけ」
「証拠が落ちてた!」
「はぁ……女が持って来たゴム。勝手に開けて寄越して来たからぶん投げた」
「は」
「つか名前も憶えてねえし。もういーだろこんな話は」
「よ、よく、無い…」
「そんなどうでもいい話はいーんだよ。今は俺とお前の話」
「!」
信じない信じないと言いながらも作られた言い訳にしては真実味があって、青峰くんにしては饒舌で…考えた言い訳を青峰くんがこんなにスラスラと言えるだろうかと考えたら、答えは否だった。
なら最後の砦だ。
って私はなんでこうも頑なに青峰くんを受け入れようとしないのだろうか。
自分でもよく分からない。
「新しい女の子、居たじゃん」
「あー、だからアレは幼馴染だって」
「百歩譲って幼馴染だったとして!…幼馴染も、恋愛対象になるでしょ」
「あ?ならねーよ。小さい頃からずっと居るんだぜ?言うなら兄妹だな」
「わ、分かんない…なんで私?」
「…」
「なんで青峰くん、私の事なんか…」
「……ったく、ここまで言わせんのかよ」
「え」
「知ってたんだよ、お前の事」
「え?」
「お前が挨拶しに来る前に、俺はお前の事1回見た事あんの」
「い、いつ」
「…荷物運び込んだ日」
「え、だってあの時留守だった」
「帰ろうとしたらお前が出入りしてたから、遠くから様子見てた」
「!」
全然知らなかった。
隠れて私の様子を窺っていたという青峰くん。
悪趣味過ぎる。
「目立って綺麗でも可愛くも無いフツーの女なのにな」
「…喧嘩売ってんの?」
「巨乳でもねーし」
「なッ」
どうもスイマセンね、どうせ顔も胸も並ですよ。
心の中で悪態をついてせめてもの反抗にと渾身の睨みを効かせて青峰くんを見上げた。
そんな私のちんけな反抗は、見上げた先にあった真剣な表情に全部飲み込まれた。
そして
「でもよく分かんねーけど、すげー頭ン中に居座ってんだわ」
「?」
「お前の笑った顔」


『笑え』って頬を引っ張られた
顔熱い、あんな事言われて笑えるわけない

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