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露呈

鋭いというよりは虚ろな目で私を見て来る青峰くんが飲み途中のチューハイをカツンとテーブルに置いた。
虚ろだってなんだって目付きが悪い事には変わりない。
異様な威圧感を放ってる。
私も多少お酒が回っているけどお酒のせいじゃない異常なドキドキが全身に響いていた。
ガタン!
「!ちょ!あぶなッ!」
突然立ち上がった青峰くんがなんとローテーブルを軽々と跨いで私側にやって来た。
つまり、
「ち、近!近い近い!」
「トーゼンだろ、近くまで来たんだからよ」
「何言ってんのこの人!ッ!?」
私の真横に座り込んでムカつく程に長い両足で私を取り囲んでいた。
そしてゴツゴツした手が私の首に触れて髪を巻き込みながら後頭部に回る。
「ちょっ、と、なッ何してんのホント!離れろ!」
「なんで」
「なんではこっちの台詞!酔ってんの!?」
「酔ってたって酔ってなくたって関係ねーよ」
「ちょっと!待ッ!こういう変な思い出とか要らない!」
「はぁ?思い出ってなんだよ」
「だから!もう出て行くってのに!余計な思い出なんか要らないって言ってんの!」
「…は?」
「は?……あ」
や、ば…すっごい余計な事言った。
私も酔ってるわ!
なんて事だ、考えてた事がまんま出てしまった。
後頭部に回った手に力が入る。
ハッとして目を向けたら不機嫌丸出しの青峰くんと目が合った。
「冗談キツイぜ」
「な、にが…」
「誰が逃がすかっつってんの」
「!?」
そう言うが早いか、肩をぐっと押されて体が傾く。
気付いた時には青峰くんの顔の先に天井が見えていた。
「いやいや、そっちのが冗談キツイって」
「ハッ、俺は本気だけどなァ」
「ほ、本気って!?何が!?」
「お前の事」
「は、はl!?意味分かってて言ってんの!?」
「おー、バカにすんなよ」
「ちょ!ちょっと、」
ゆっくり青峰くんの顔が近付いて来る。
パニックを起こし掛けてる私とは対称的に相手は余裕なのかぼんやり私を見てる。
でも息が掛かる距離に迫った時ふと気付いた。
顔、赤い?
逆光で更に分かりにくいけど色黒の肌に少し赤味が差している気がした。
更にぐっと顔が近付いてヤバイと思った瞬間、私は思いっ切り顔をずらして青峰くんを避けていた。
ゴッ
鈍い音を立てて青峰くんのおデコが地面とコンニチハした。
「ご、ごめん?いやいや、ごめんはおかしいけど!大丈、夫…って、青峰くん……は!?」
「ぐぅ」
「ちょっとちょっと、まさか」
痛そうな音に心配して声を掛けたけど返事はない。
代わりに耳のすぐ横でまさかの寝息が聞こえた。
「お、重…ていうか何これマジですか!」
巨体に圧し掛かられてピクリとも動けない。
背中をバシバシ叩いたり髪を引っ張ったり、結構酷い事をしてみたけど案の定全く反応は無かった。
「重い!体でか過ぎでしょ…はぁ」
諦めて体の力を抜けば私もどうやら酔いが回ってしまったらしい…瞼が重くなって来た。
背中を叩いたまま置きっ放しにしていた手を少しだけ、少しだけ…大きな体に沿う様に回した。
酔ってるからだ、こんな事するのは。
脳内で何度もそんな言い訳を繰り返して目を閉じた。


『おはようございます。9月1日、今日のお天気です。今日は…』
遠くでそんな声が聞こえてゆっくりと意識が浮上する。
カーテンの裾からは明るい外の光が入り込んでいた。
寝返りを打とうとして身動きが取れない事に気付く。
「…そうだった、体痛ぁ…」
床に寝てしまったせいで全身が痛い。
その原因である巨体の男はすぐ傍で未だ寝息を立てていた。
後ろから覆い被さり、私を抱き枕にして。
ずっと潰されたままじゃなかっただけマシと思うべきか…
妙に冷静な自分が滑稽だ。
「…青峰くん」
期待はしてなかったけどやはり返事はない。
仕方なく巻き付いた腕をバシバシ叩いてみる。
「…ん…」
「!青峰くんっ」
「…いってぇ…」
「え、そんな強く叩いて無いけど」
「頭、いってぇ…喋んな…」
「は…ちょ!」
一応目は覚めたらしい青峰くんは所謂二日酔いという物なのか、頭が痛いと言ってもぞもぞ動き出した。
そして腕を解くどころかぎゅうぎゅうと更に巻き付いて来たのだ。
「ま、待って待って!私を解放してから寝て!」
「うっるせぇ…う、マジ、喋んな」
「だ、だからッ!ぎゃっ!」
なんとか身を捩って抜け出そうとしたら耳元にふっと息が掛かる。
思わず変な声が出てしまった。
私が身を硬くして大人しくなった事に気付いたらしい青峰くんが、ふぅと溜息を漏らした。
だから!息掛かるから止めてって!
それ以降静かになったので二度寝したのかと思ったけど…そうじゃなかった。
「…おい」
「!?…び、びっくりした」
「お前こそ、本気って意味分かってんの?」
「な!」
酔って寝たくせに記憶はしっかりあるらしい。
恐ろしい子。
「逃がす気ねーから」
そう言ってまた私を抱き込んで寝入ってしまった青峰くんに、ただ呆然としているだけの私は何も返す事が出来なかった。


曖昧な拘束の言葉
本気って、何が、どのくらい?

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