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私らしく

私は部屋で1人、アパートの書類と睨めっこしていた。
自分が書くべき所は全て記入が済んで、後はこれを叔父さんに送って兄と叔父さんに保証人の欄を埋めて貰えば契約成立…私はここを出て行く事になる。
「何をこんなに悩んでるんだろね」
ポツリと出た言葉は自分への疑問だ。
…ぶっちゃけ、多分ちょっと楽しかったんだよね。
始めは男と、しかもこんな如何にも「雄」な強面の男と同じ家に暮らす事になって、関わりたくもないし女は連れ込むし嫌だ嫌だって思ってたのに。
「人間変われば変わるもんだ…こわ」
書類を纏めて封筒にしまって部屋を出た。

「ドリンクバーと肉」
「…かしこまりました」
いくらモヤっとしていたってバイトの時間はやってくるわけで、今までと変わらず終了1時間くらい前に青峰くんは店にやって来た。
いつもの注文を受けて裏に下がってガックリと肩を落とす。
「来るんですか、普通に…」
それからの1時間はあっという間で、気が付いたら着替えて駐輪場で待つ青峰くんを視界に入れていた。
「…何やってんだよ、帰んぞ」
「…」
歩き出した青峰くんに続いて足を進める。
隣に並ばない様に一歩後ろを歩いていれば自然と速度が落ちて当然の様に隣に並ばれた。
気まずい事この上ない。
「そういや昨日の女」
「…え?」
「幼馴染」
「…あ、そう」
「おう」
突然切り出された話の内容に戸惑う。
幼馴染とか、別に説明要りませんけど。
散々遊んでた人が今更女遊びを否定して何になるのか。
だいたいそんな事言われてもソウデスカとしか言い様が無い。
肩を竦めて溜息を吐いた。

1人で軽い夕飯を食べているとお風呂上がりの青峰くんが水を片手に私の向かいに座った。
ちょっと、食べにくいから止めて欲しいんだけど。
ゴクゴクと喉を鳴らして水を飲み干してから睨む様に私を見て来た。
「明日、暇だよな?」
「ちょっと、決めつける様な言い方止めてよね…予定は無いですけど」
「っぶ、暇なんじゃねーか」
「貶しに来たならどっか行って」
「ちげーよ。明日、晩飯の時間だけ予定空けとけよ」
「…なんで」
「いーから空けとけ」
よく分からないけど例え日中お出掛けしたとしても夕飯の時間なら疲れて何処にも行く気にはならないだろう。
とりあえず了承の返事をして残りのご飯をたいらげた。


翌日、家でダラダラしていると叔父さんから電話が掛かって来た。
契約の催促かと慌てて出れば時間が出来たから一緒にアパートを見に行こうというお誘いだった。
久しぶりに会った叔父さんは変わらないのほほんとした笑顔で出迎えてくれた。
とりあえずどんなもんか見てしまおうと現地に赴いた。
写真通りのお洒落で綺麗なアパート。
春頃の私だったら飛び付いていた物件だっただろう。
アパートに足を踏み入れる。
玄関を開けた瞬間、『綺麗』という感想の前に『寂しい』という言葉が浮かんだ。
1LDKのその部屋は当たり前だけどお1人様専用の部屋だ。
どうやら私は思っていたよりあの暮らしに馴染み過ぎてしまったらしい。
「名前、どうした?何処か気に入らない所あった?」
「無いよ、凄くいいね。ここに決めちゃおうかな」
「そうか?なら早速契約しておこうか」
「…うん。そうだね、そうする」
「お。そのアッサリな感じ、名前らしくていいね」
「お褒めに預かり光栄でーす」
「じゃあすぐに成立!と言いたい所なんだけど…この前送った書類さ、大家さんのとこちょっと記入ミスしててね。こっちの新しいのに書き直してくれる?」
「もう、叔父さん相変わらず抜けてるんだから…お客さんに逃げられるよ?」
「あはは、全くだよな」
「分かった。書いちゃったヤツは破棄でいいんだよね?」
「ああ、シュレッダーかけて捨てといてよ。で、これ書いて印鑑押したら送ってくれな。この封筒入れて…ちゃんと切手貼っといたから送料浮くぞ」
「っぷ、送料くらい払えるってば」
その後、相変わらずの叔父さんと遅めのランチを食べてデザートまでご馳走になって、いい思いをしてご機嫌で帰宅した。
もうすぐ去る事になる現在の私の家に。


即決即断、悩むのは性に合わない
そうだった、それが私だ

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