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働く男

なんて事だ。
来てしまった、ラーメン屋に。
否、なんて事はない…冷やかしに来ただけだ。
あの青峰くんが働いてる!なんて言って冷やかしてやる為に来たんだ。
味噌ラーメン美味しかったし、うん。
店の前で立ち止まって言い訳がましく脳内で独り言をぼやいていたけど、すれ違う通行人から思いっ切り邪魔だという視線を向けられてやっと店内に足を踏み入れた。
「らっしゃーい!お?大輝の彼女じゃねえか!」
「ち、違います!」
この間の店長にバッチリ顔を覚えられていたらしく、こっそり作戦は早くも失敗に終わった。
ところで肝心の青峰くんが見当たらない。
「大輝なら今来るぞ?裏で着替えてる」
「い、いや!別に気にしてません」
子供染みた意地を張る私を優しく見下ろして『来るまで待ってな』と言うこの店長さんはきっと凄く凄くいい人なんだろう。
数分後暖簾を潜って裏から出て来たのはこの前脳内で想像した青峰くんまんまだった。
カウンターに私を見つけると細い目を全開で見開いて驚いていた。
「お兄さん、味噌ラーメン1つ」
「…お、おう」
私の目の前で黙々と作り始めた青峰くんを見てみる。
バイト服が予想以上に様になってて驚きだ。
身体が大きいせいか少しぴったり目のTシャツを着て、両袖を肩まで捲り上げて無駄な肉のない引き締まった腕を露出している。
おデコに巻いた黒タオルの上からは青い髪をツンツンと覗かせていていつもと顔の雰囲気も違って見えた。
あまりに凝視していたらしく非難の声が上がる。
「やりにくい、あんま見てんじゃねーよ」
「えー。カウンターで他に何を見ろって言うの」
「オッサンでも見てろ」
「あっはっは!嬢ちゃん、大輝照れてんだよ!気にせず見てやれ」
「うっせーオッサン!」
前にも見た2人のじゃれ合いを眺めているうちにラーメンは完成したらしく、ガンっと音を立ててどんぶりがやって来た。
案の定たぷんとスープがひと跳ねして
「「あ」」
私の服に染みを作った。
「わ、悪い」
「いいよ、平気。いただきます」
「いいってお前」
「大丈夫。熱いうちに食え、でしょ?」
「お、おう…」
渋々次のラーメン作りに取り掛かった青峰くん。
だけど時折こっちを気にしてチラチラと見て来る。
大丈夫だって言ったのに。
そう思っていたけど青峰くんが知りたいのはそこでは無かった様だ。
「な、何?」
「……う、美味いかよ」
「え?」
「ラーメン、美味いかって聞いてんの」
「ああ、うん。凄い美味しい」
「…そうかよ」
言いながら俯いていたけどその表情がちょっとだけ嬉しそうに見えてしまった私は、そんな青峰くんの事をこう思ってしまった。
「何それ、可愛い」


ああ、ほら
こんな感情、邪魔でしかないのに

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