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胸焼け

約1週間の試験期間が終了して、解放感でいっぱいの構内を見渡す。
真太郎は知らない女の子に話し掛けられてたじろいでいて、高尾は多分彼女と電話中だ。
長引きそうだと思った私は身振り手振りで先に帰ると伝えた。
置いて行く気か!と焦っていた真太郎には悪い事したと思う。
ごめん、後でお汁粉あげる。
外に出ると真夏の太陽がジリジリとこれでもかと肌を照り付けて来るから思わず顔を顰めた。
「ひでー面だな」
「…すいませんね、目の毒で」
現れたのは青峰くん、というのはもう分かっていた事なので特に驚かない。
試験が終わったら外で待ってろと言われていたから。
「メシ食い行こーぜ」
「…え、何、私と?」
「おう」
「2人で?」
「…なんか文句あっかよ」
「べ、別に」
何故か動揺した。
家ではよくご飯を一緒に食べる様になったけど外食にしかも2人だけで行くのは多分、否確実に初めてだ。
青峰くんが隣に居る事に少しずつ慣れて来てはいる。
というかむしろ自分から進んでリビングを出歩く様になった私は、青峰くんに対する考え方が変わったんじゃないかと思う。
そしてそんな生活も悪くないと思い始めた頃から、私は妙な感情を持て余す様になっていた。
『この生活も案外楽しいかもしれない』
『最近は女の子連れて来ないな』
『大学にも家にも居ない時って、何してんの?』
その感情がなんなのか、それが大きくなればどうなるのか、もう子供じゃない私には見当がついてる。
出来るならこのままでいたい。
やっと居心地が良くなって来たあの場所を面倒事で壊したくはないから。

「なんだ、ラーメンか」
「なんだよその言い方は。食わねーの?」
「食いますって」
「なら文句言うな。店長、味噌2つ。1コ特盛な」
「はいよー」
「わあ、メニュー選択権も無しか」
「ここは味噌が一番美味いんだよ」
カウンター席に着くなり青峰くんは勝手に注文した。
まあ味噌は好きだからいいんだけど。
それよりも、さっきからどうにも無視出来ないくらいの凄い視線を感じる。
目の前の厨房から。
話し掛けたくてウズウズしているような『店長』と呼ばれた男性。
一瞬でも目を合わせたら何か言われそうだ。
と思ってたら話し掛けられた。
私ではなく青峰くんが。
「おう大輝!隣の子、彼女か?」
「…ちげーよオッサン。黙ってラーメン作ってろよ」
「なんだよ情けねえなあ!早く自分のもんにしちまえっての」
「だからちげーっての!うぜえ!」
「…あ、青峰くん?」
「あ?」
「お知り合い?」
「嬢ちゃん、大輝がここでバイトしてんの知らねえのか?」
「え?」
「なんだお前言ってねえのかよ。薄情な彼氏だなあ」
「だからちげーッ!!」
店長さんに異常に絡まれる青峰くん。
かなり可愛がられてるらしい。
それにしても知らなかった、青峰くんもバイトしてたなんて。
ラーメン屋さんだなんてちょっと意外だけど、働いてるところ見てみたい気もする。
店長さんは店の名前が書かれた黒いTシャツに腰に巻くタイプの黒いエプロン、首には白い多分汗拭き用のタオルを提げて、黒地のタオルをおデコとも頭とも言えない位置に巻いていて…
青峰くんもこんな格好で働いてるのか。
ふうん。
無意識に脳内で想像していた私はまたしても…
ってほら、また私は何を考えてんだか。
そうこうしているうちに目の前にドンとラーメンが置かれた。
『可愛い嬢ちゃんにはサービスだ』なんて言って店長さんがチャーシューをもう1枚つけてくれた。
『可愛いだってよ、ぶ』
隣からそんな声が聞こえて来たものだから横目で睨みつけてやったら、特盛のどんぶりからもう1枚チャーシューがやって来た。
「試験お疲れ。熱いうち食えよ」
ポカンとする私に構う事無くズズズと麺を啜る青峰くんから私は目を逸らす事が出来ない。
何これちょっと、この息苦しいの誰かなんとかして。
そんな思いも虚しく、胸焼けでもない胸の苦しさと格闘しながら熱いラーメンを啜るのだった。


理解はしてる
この胸焼けみたいな症状が一体なんなのか

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