HOME…SWEET HOME? | ナノ

学生の本分

7月の終わり。
静かな部屋にカリカリとシャープペンを走らせる音が響く。
1人分の、だ。
明日に迫った前期試験に向けてラストスパートと言った所。
暫く集中していた私は一息吐いて顔を上げた。
「…青峰くん」
「あ?」
「一応これで言うの最後にしとくけど…大丈夫?」
「大丈夫だっつってんだろ」
「…あ、そ」
かれこれ2時間ほど勉強をしているわけだけど、向かいで一応教材を開いている青峰くんは1文字も字を書いた形跡がない。
資料にも目を通しているのかさえ分からない。
欠伸したり外をボーっと眺めたり…やらないならこんな所に居ないで何処か行けばいいのに。
大丈夫かと聞けば大丈夫の一点張りだ。
…別に心配とかそういうのじゃない。
最後の忠告も流されて私は深い溜息を吐いた。
ピンポン
「あ」
「…誰だよ」
「真太郎と高尾」
「はぁ!?」
そういえば2人が来る事を青峰くんには伝えていなかった。
私が勉強し始めたらいつの間にか向かいに座っていたのだから仕方ない。
彼は眠そうにしていた目をこれでもかと開いてから露骨に嫌な顔をした。
けど無視だ、無視。
「邪魔するのだよ」
「ヤッホー!やっべ、俺初めてだわ!2人の愛の巣来んのっていってぇ!」
「馬鹿な事を言うな、帰らせるぞ」
「高尾、口にガムテ貼ろうか」
「ごーめんってー」
一気に騒がしくなった。
リビングに通すと青峰くんと真太郎が互いを視界に入れた。
「青峰…お前が勉強する姿が見られるとは、明日は雪が降るのだよ」
「っるせーよ、なんでお前らが来んだよ」
「ふん、1年の時からの恒例行事なのだよ。名前、お汁粉をくれ」
「高尾ちゃんコーラね〜」
「はいはい」
キッチンに引っ込んで様子を窺ってみる。
2人とも態度は悪いけど特に険悪な感じでも無さそうだ。
ホッとして飲み物を準備しているといつの間に来たのか青峰くんが立っていた。
「…何か飲む?」
「コーラ」
「分かった。持ってくから座ってていいよ」
「…アイツら、いつまで居んの?」
「んー、多分夕飯食べてく」
「はぁ!?早く帰らせろよ」
「え、なんで」
「うぜえ」
「うわ…やっぱ駄目か。じゃあ場所変えるよ、出て行くから安心して」
「は?ちょ、待て」
「!な、何」
突然青峰くんに腕を掴まれた。
早く帰らせろって言ったり出て行くと言えば引き留めたり…一体なんなんだ。
「…出て行かなくて、いいの?」
「チッ…勝手にしろ」
頭をバリバリと掻いてリビングに戻る青峰くんを見送る。
よく分かんないけど出て行かなくてもいいらしい。

「青峰ってさぁ〜、学部違うんだよな」
「あ?誰だよお前」
「ひっでぇ!真ちゃんの親友の高尾くんだって〜!」
「親友だと?それは初耳だ」
「うっわ!真ちゃんまでひでえな!」
「お前らうるせーよ!騒ぐなら帰れ」
「ふん、俺は名前の家に来たのだよ」
「俺は!って俺もだろ真ちゃん!」
「ここは俺んちでもあんだよ」
「おおッ!そうだよなッ!青峰と名前の愛のいってぇえッ」
「名前、ガムテープを寄越せ」
「真太郎、強力接着剤でいいと思う」
「っぶ」
「「「…」」」
「あ?…んだよ」
下らないやり取りの中、笑いを耐える様に吹き出す声が響く。
思わず3人でその人物を凝視した。
「青峰も笑うんだな!」
「もう黙るのだよ高尾」
「悪ぃかよ…だいたいソイツだってあんま笑わねーだろ」
「え!ソイツって名前ん事?」
「他に誰が居んだよ」
「ええ!名前めっちゃ笑うよな!?」
何故か矛先が私に向いた。
そういえば前もそんな事言われた様な。
『…笑えんじゃん、お前』
『お前、俺には笑った顔見せねーじゃん』
余計な事言うな、高尾。
何故かジト目を向けて来る青峰くんから目を逸らす。
「ほらほら!あんたたち何しに来たの!」
「…勿論勉強だ」
「はいはーい」
やっと勉強が始まったのはいいけど、結局青峰くんからの妙な視線が痛くて私は全然集中出来なかった。


原因、それは
その鋭い視線と初めて見た笑顔

prev / next

[ back to top ]

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -