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変化

「っていうわけなんですよ、真太郎さん」
「…」
「なんかこのパターン多くね?」
「邪魔だ高尾」
「どっか行け高尾」
「ひっでぇ、まあこの件も慣れたけどー」
青峰くんと2人、新品のホットプレートで焼肉パーティーをした昨日の話だ。
お肉は美味しかった。
しかもタダ食いだしありがたい事だ。
別に話しが盛り上がったとか楽しかったとかそういうわけじゃないけど不思議と居心地は悪くなかったように思う。
不思議だ。
お腹いっぱい食べた後、青峰くんは『もう食えねえ』とか言ってその場にひっくり返った。
そのまま寝てしまったものだからまさか私が運べるわけもないのでタオルケットを掛けておいたんだけど…
朝起きたらリビングには居なくて青峰くんの部屋から物凄いイビキが聞こえた。
…私のタオルケット拉致られた。
「それで、分かったのか?」
「ん?何が?」
「青峰がどんなヤツか、に決まっているのだよ」
「…うーん」
「分からなかったらしいな」
「あはは。どんな人かなんて分かんないけど…まあ、前みたいな苦手意識は無くなったかも?」
「名前、焼肉で餌付けされたのか」
「ちょ!そんな食い意地張ってないから!なんていうか、真太郎の言ってた『馬鹿で単純』っていうのがなんとなく分かったっていうか…白黒ハッキリしてて、裏表無いなって」
「…」
「え?」
私の返答に真太郎が目をパチパチとしばたたかせた。
何かおかしかっただろうか。
「裏表が無い、か。俺の言葉は完全に『欠点』を表しているが、お前の言い方はヤツの『長所』を述べている様に聞こえるのだよ」
「は」
「…まあいい。あの家に居るのが苦で無くなるのならそれでいいだろう」
「う、うん…まあ…」
真太郎がいつも私の事を心配してくれるのはありがたいけど、今の私の頭はそれどころじゃなかった。


夕暮れの帰り道を1人トボトボと歩いていた。
真太郎に言われた言葉が頭の中をグルグル回ってる。
私、今まで青峰くんの欠点ばかりを意識して見て来たような気がする。
怖そうだとか感じ悪いとか取っ付きにくいとか、女遊びが酷いとか…考えてみたら大学内での噂(主に高尾)とか人伝の話だ。
あ、女遊びっていうのはまあ実際修羅場を見てしまった私は否定してやれないけど。
実際昨日みたいに接してみたら思ったより居心地は悪くなかったのだ。
青峰くんという人を見ようとして来なかった私の意識は彼を見ようと働き始めていた。
凄く不思議な感覚だ。
男は得意じゃないし真太郎とか高尾とかと同じ『男』なんだけど何処か異なる様な。
「おい」
「ひぎゃッ!!」
「ぶっ」
ぼんやりしていた所に突然低い声が響いて肩を叩かれた。
驚いて変な声が出てしまった。
それがおかしかったのか脅かして来た本人は吹き出した、酷い。
「青峰くん、吃驚させないで」
「っくく、お前ビビり過ぎ」
「…何の用デスカ」
「は?帰んの同じ場所じゃん」
「う、それは…そうだけど…」
そのまままた当たり前の様に一緒に歩いた。
最近は何処かで会えばこうやって家まで一緒に帰っている気がする。
一緒に居る時間が真太郎たちより増えて来ていると思う。
『あの家に居るのが苦で無くなるのならそれでいいだろう』
真太郎の言葉を思い出した。
実際…嫌じゃない。
苦じゃないのだ。
自分の意識の変化に戸惑う。
チラリと隣を見上げると相変わらず気怠そうな横顔。
『肉も飽きたな』なんて呟いている姿がやけに子供っぽく見えて無意識にフッと笑いを漏らしていた。
「…笑えんじゃん、お前」
「え」
「お前、俺には笑った顔見せねーじゃん」
「…え?」
「あ?」
「な、何?」
「なんでもねー」
軽く流されてしまったこの会話に私は首を傾げるしかない。
笑った顔…
私は青峰くんの前でいつもどんな顔をしてるんだろう。


彼に対して自然に漏れた笑み
一番戸惑ったのは他でもない、私

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