「青峰くん」
私の声に振り向いたその顔は大分お待たせしたというのに別段怒ってはいなかった。
ふと青峰くんの視線が私のバッグに注がれる。
そこには『交通安全』のお守り。
ここに来る間にさっき真太郎から貰ったお守りを結び付けておいたのだ。
女物のバッグに、深い緑色に渋いデザインのそれは明らかに異質だ。
気付くのも当然かもしれない。
「そんなん、今までついてたか?」
「真太郎に貰ったんだよ」
「交通安全って、お前事故に遭った事でもあんの?」
「ないよ。ただの護身用だって」
「緑間………護身、な…」
「ところで、高尾に呼んでたよって言われたから来たんだけど」
「ああ、ちょっと買い物付き合ってくんねえ?」
「買い物?」
青峰くんに連れられて来たのはペンギンのマスコットが入口で出迎えてくれる商品山積みの某お店。
ガラガラとカートを押して歩く様があまりにも似合わなくて吹き出してしまった。
「なんだよ」
「い、いや…ところで何買うの?」
「色々」
「答えになってないんだけど」
そのまま店の奥に進んで辿り着いたのは調理器具やキッチン家電のコーナーだった。
そこでまず青峰くんが手に取ったのはホットプレート。
普通のプレートとたこ焼きが出来るセットになっている物だ。
迷わずカートに投入。
続いて大きめの鍋と土鍋も特に考える様子も無く入れていく。
「これ、こんなに何に使うの?」
「あ?見りゃ分かんだろ」
「うん、まあ…青峰くんが家で使う用?」
「まあな。お前もだけど」
「…ん?」
ポカンとする私を置いてさっさと次の場所に移動する青峰くん。
私も?
慌てて追いかければ今度は乾麺や麺つゆ、お好み焼き粉やたこ焼き粉など他にも沢山次々と籠に入れていった。
全ての買い物を終えてその荷物の量に驚愕した。
それを軽々と持った青峰くんが気怠げに私を振り返る。
「…帰んぞ」
「え、あれ、私これだけ?」
「なんだよ、これ全部担ぎてーの?」
「いやー、遠慮しときます」
私が持っているのは軽めの物が入ったレジ袋1つだ。
これ、私来た意味あったのかな。
わけも分からず特に会話も無いまま家に帰った。
家に着いてリビングに入ってすぐ部屋の違和感に気付く。
大きな段ボール箱3つが開封された状態で置かれていた。
「これ、何?」
「開けてみろ」
買って来た物を部屋の隅に下ろしながら青峰くんが顎で『開けろ』と指示する。
首を傾げながらその段ボール箱を開けて思わず『わ!』と驚きの声が漏れた。
「キャベツ、人参、じゃがいも、玉ねぎ…え、こっちは生肉!?」
「田舎から婆さんが送って来た。肉は母親」
「こんなに!?」
「たまにこうやって大量に送ってくんだよ」
「うわ…羨ましい。いいご家族だね」
「…別に。多過ぎて困るくらいだし。だいたい野菜とか1人で全部使い切れねーしな、まずあんま料理しねえ」
「ああ、確かに。それで粉物と焼き肉で処理しようとして買って来たんだ」
「暫くもつだろ…お前もな」
「え」
私も?デジャヴだ。
どうやらこの食材を私に分けるつもりでいるらしい。
だけどそれは私の勝手な想像であってこの後の青峰くんの言葉に私は更に驚く事になった。
「焼き肉も粉モンも1人で食ってもめんどいしつまんねーだろ。だからお前も一緒に食うんだよ」
「…い、一緒に」
「おう。とりあえず今日は焼き肉な」
大量の食料ゲットと共に漏れなく青峰くんとの食事権が付いて来たのだった。
御食事権の有効期限は
食料が尽きるまでか、それとも
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