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どんな人?

バイトを時間通り終えた私は結局、青峰くんに言われた通りファミレスの駐輪場に立っていた。
口約束を取り付けた本人はたった今会計を済ませ、気怠そうな足取りでこちらに向かって来る所だった。
「よお、お疲れ」
「う、うん」
何か言うでも無くそのまま歩き出した青峰くんに続く。
暫く歩くといつの間にか歩幅が揃っていて、見上げる程に高い青峰くんが隣を歩いていた。
「お前さ」
「うん?」
「いつもこんな時間に帰ってんのかよ」
「うん、そうだけど?」
「…この道、女1人じゃ危ねえだろ」
「え、別に明るいし平気」
「変な店とか勧誘とかあんじゃねーか」
「…ああ」
確かに、青峰くんの言う通り俗に言う夜のお店なるものが数店舗並んだ道は通らなければならない。
だけどそれを除けばお店の光で明るいし特に気にする事も無いと思うんだけど。
「ああ、じゃねーよ。お前女って自覚あんのか?」
「え、うん、一応」
「…バイトのシフト、決まってんの?」
「うん。だいたい同じ曜日」
「ふーん」
自分から聞いておいて気の無い返事をしながら頭をボリボリと掻く青峰くん。
でも、次に彼が発した言葉に私は思わず立ち止まってしまった。
「…はい?」
「だから…お前がバイトん時は晩飯食いに行ってやるって言ってんの」
「…何故」
「はぁ?だからそのまま帰り送ってやるって言ってんだよ」


「っていうわけなんですよ、真太郎さん」
「…」
「わぁお!真ちゃん顔怖ぁい」
「黙れ高尾」
「きゃッ」
「ウザイ高尾」
「えー、名前までなんだよー」
講義終了後、後は帰るだけとなった私たちは、昨日の私と青峰くんの話で盛り上がっていた。
まあ騒いでるのは高尾だけだけど。
「それで結局、昨日も送られたというわけか」
「うん」
「送られたっつーか一緒に帰った、だよな!同じ家に住んでんだし?」
「もうそこには触れないで高尾」
「っはは!わーりっ!」
全然悪いだなんて思っていないであろう高尾を放置して私は真太郎と向き合った。
相変わらず難しい顔をしている。
「ねえ真太郎」
「…なんだ」
「青峰くんてさ、どんな人?」
真太郎が目を見開いた。
私もなんでいきなりこんな事聞いてるんだろうと自分で驚いたけど…
それは純粋な興味だった。
私の中の青峰くん像は現在『よく分からない』という言葉が妥当。
正直始まりが始まりだっただけに今まで青峰くんという人を『知ろう』としなかった。
というよりも『男』であるという事がまず大きな壁を作っていたんだろう。
だけど最近はどうだろうか。
向こうが勝手にという感じだけど会話をする様になって、少しだけ『どんな人なのか』が気になり始めたのだ。
他意は無い。
暫く黙っていた真太郎がやっと口を開いた。
高尾はいつの間にか外に出て電話をしている。
きっと溺愛中の彼女と話しているんだろう。
「青峰は…」
「うん」
「青峰は、馬鹿で単純で欲の塊だ」
「ぶっ」
「笑う所ではないのだよ。他に言い表し様が無い」
「そ、それにしたって、っはは」
真太郎の端的で明解な答えに思わず笑ってしまった。
あんな無表情でいつも気怠そうにしてて強面で女に困ってなさそうな男が…
「馬鹿で、単純で、よ、欲の塊ッ」
「中学時代は他人の目も気にせずグラビア雑誌を宝物の様にいつも抱えていた」
「うわー」
「すぐ頭に血が上る、だらしない、頭が悪い、ふ、不健全な事ばかり考えている…」
「真太郎、悪口にしか聞こえないよ」
「仕方ない。特別褒められる様な所が無いのだよ」
「うはは、酷い言われ様だ」
真太郎の毒舌を笑いながら聞いていれば、さっき外に出ていた高尾がニヤニヤしながら戻って来た。
キッと睨み付ければ両手を上げて降参のポーズをするなんともふざけたヤツだ。
「なあなあ、名前!」
「なんですか高尾くん」
「噂をすれば、呼び出しだぜ?」
「は?」
「だーかーらー、ほら!あっち見てみ?」
あっちと高尾が指差した方に目をやると、さっき高尾が居た所になんと青峰くんが立っていた。
何故!?
「いきなり声掛けられたからびびった〜!早く行ってやんなよ」
「ちょ、ホントに…呼んでるの?私を?」
「さっきから言ってんじゃん?じゃ、俺帰るから、まったな〜!」
「あ、ちょっと!」
言うだけ言って愛する彼女の元へ向かった高尾。
呼び出しって…あれってやっぱり私が来るのを待ってるって事だよね?
ポケットに手を突っ込んでこちらに背を向けて立っている青峰くんをもう一度見てみる。
不本意ながら『気になり始めている』のは確かだ。
「名前」
「ん?」
「早く行くのだよ」
「え?」
「馬鹿が待っている」
「ぶっ」
「俺が言っている事が全部悪口だと思うのなら」
「え」
「自分で知って確かめてみればいいのだよ」
「し、真太郎?」
「お前がヤツの長所でも見付けてみればいい、あればの話だがな」
「…真太郎がそんな事言うなんて」
「嫌でも毎日顔を合わせる状況にいるのだから、お前が相手を知る事で少しでも生活しやすくなればいいと思うのだが…まあ、それが吉と出るか凶と出るか」
「真太郎って、やっぱお父さんみたい」
「う、うるさいのだよ!!人がせっかくアドバイスをしてやっているというのに!」
「ごめんごめん!じゃあ、行って来るよ」
心配性のお父さんに手を振ってその場を去ろうとすれば、ポンと何かが宙に浮いて咄嗟に手を出す。
私の掌に乗ったそれはお守りだった。
「これ、真太郎の今日のラッキーアイテム」
「持って行け」
「何の為に?」
「護身だ」
「っぷ!ありがたく預からせて貰う!」
「ふん」
真太郎から貰った『交通安全』のお守りを手にして、私は青峰くんの居る場所に向かった。


『交通安全』って…
『男除け』になんてならないと思うけど

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