HOME…SWEET HOME? | ナノ

いらっしゃいませこんにちは

青峰くんの態度に戸惑いながらも新生活になんとなく慣れて来た私はバイトを始めた。
ファミレスのバイト。
ドジっ子気質でもない私は可愛げもなくあっさりと仕事を覚え、通常3ヶ月間は着けるはずの胸元の『研修中』のプレートを2ヶ月も経たずに外す事になった。

季節はいつの間にか初夏。
相変わらず青峰くんとの奇妙な同居(もう言い方なんてどうでも良くなった)は続いている。
あの元彼女との修羅場以来、女の子が家に来ていないのは結構助かっている。
おかげで前ほど身を隠す必要も無くなった様に思う。
「いらっしゃいませ、あ!」
「よぅ!名前〜!茶化しに来たぜ〜」
「邪魔するのだよ」
「高尾!真太郎!」
平日のランチ後、客足の少ない店内に元気な声が響いた。
真太郎と高尾は私がここでバイトを始めたのを知ってからちょこちょこやって来る。
涼みに来たり課題をやりに来たり私を冷やかしに来たり。
随分とお暇な事だ。
あと1ヶ月もすれば夏休み、きっとここは恰好のたまり場になる事だろう。
お冷のグラスをテーブルに運べば当たり前の様に高尾が私を引き留めて話し出した。
「最近どうなんだよ、お宅は」
「何その『お宅』ってのは」
「そんなん名前んちの事に決まってんじゃん」
「…どうもこうもないよ、普通」
「へえ、青峰の女癖は?」
「知るか!まあ女の子が家に来る事は無くなったけどね」
「わお!それすげーじゃん!ついに女に愛想つかされたか?」
「…逆だね。捨てたんだよ、バッサリ切り捨てて」
「ふん。やはりアイツは何も変わっていないのだよ」
「ま、全てにおいて特に変化なしって事」
「なーんだ。最近女の子の噂聞かないし、もしかしたら名前食われちゃったのかもとか思ってたぜ」
ゴトッ
「なッ」
「はぁ!?…!し、失礼しました!」
高尾の発言に驚いて思わずトレイを落としてしまった。
周りのお客さんの視線に気付いて慌てて謝り、見えない様に高尾の足を思いっ切り踏ん付ける。
「いってぇ!」
「お前が悪いぞ、高尾」
そんな声を聞きながら急ぎ足で裏に戻った。


「いらっしゃいま、せ…」
「よお」
本日二度目のトレイの落下は免れたけどそのまま暫く私の時間は止まってしまった。
真太郎と高尾はあれからダラダラと長居して夕飯を済ませて帰って行った。
2人が去ってから割とすぐ現れたのは
「青峰くん」
「お前、こんなとこでバイトしてたんだな…あ、ドリンクバーな」
「え、あ、ああ、はい」
青峰くんはそう告げるとそのままドリンクバーの所に向かいコーラを淵きり一杯注いで適当な席に座った。
それを茫然と見送ってしまった私はやっと我に返って裏に戻る。
高尾が変な事言ったからちょっと動揺してしまった。
青峰くんとは家で普通に会話はしてたけど特に言う必要も無いと思ってたからバイトの事は言っていなかった。
というか大学の場所から家とは逆方向のこの店に青峰くんが来ると思ってなかった。
現にバイトを始めて2ヶ月、初めての来店なのだから。
すぐに呼び鈴が鳴って飛び出せば呼び付けたのは予想通り青峰くんだった。
「ご注文はお決まりですか?」
「このハンバーグとこっちの肉」
「はい、ご注文は以上で」
「おい」
「は、はい?」
注文を取って早く下がろうと思っていたらそうもいかなかった。
メニューを気怠そうに見下ろしていた目が私を捉える。
「…何?」
「何時に終わんだよ」
「え」
「だから、ここ、何時上がりかって聞いてんの」
「ああ、バイト…今日は21時」
「…あと1時間か」
「うん。じゃ」
「おい」
「は?」
「終わったら駐輪場な」
「え?」
「…おら、客呼んでんぞ。行けよ」
「え、あ、うん」
青峰くんの言う通り振り返れば注文待ちのお客さんが手を挙げていた。
視線を戻すと既に青峰くんは外を向いてコーラを飲んでいる。
『終わったら駐輪場な』
これってやっぱ一緒に帰るって事だよね。
…。
高尾のせいで変に意識してしまっている私は、バイトが長引いて彼が痺れを切らして帰ってしまえばいいのにと思いながら仕事をこなした。


そんな風に思っていたせいか
案の定いつもより時間の経過が超速だった

prev / next

[ back to top ]

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -