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赤の他人

「名前…名前!」
「うーん」
「名前!起きるのだよ!」
「…は!」
寝てた…私、寝てた!
勢いよく体を起こせば物凄く呆れた表情の真太郎が私を見ていた。
忌々しげに。
「お、おはようございます」
「お前は真正の馬鹿だな」
「いやぁ、人間眠気には勝てないよね」
「なんだと?来るなり勝手にソファに飛び込んで俺が飲み物を出すまでの数分で寝こけられるヤツが馬鹿でなければ一体誰が馬鹿だというのだよ」
「あはは…疲れてたのかなぁ、ごめんごめん」
「全く」
憤慨して捲し立てる真太郎に平謝りしながらテーブルに置かれた麦茶を飲み干す。
確かに疲れていたと思う。
体じゃ無く精神的に。
自分の家の様でそうじゃない様なあの家にずっと居るのはなんだかちょっと息苦しい。
1人気儘に過ごせればいいのだけど、青峰くんがなんやかんや話し掛けて来る様になったから余計にそう感じるのかもしれない。
あとほら、女の子も出入りするから身を隠さなきゃいけないし。
今の状況を真太郎に話すと少し驚いた顔をして眼鏡のブリッジを押し上げた。
「青峰が自分から会話を持とうとするとは、意外だな。まして女になど」
「そうなの?でも彼女とか居るじゃん?」
「アレは会話の相手だとかそういう対象ではないだろう」
「うあ、なんか真太郎セクハラだよ」
「なッ!お前はセクハラの意味を分かっているのか馬鹿め!セクハラというのは正しくはセクシャルハ」
「はいはいはいはい!余計恥ずかしいよ真太郎」
「!……うるさいのだよ」
セクハラについて力説し出した真太郎を鎮めてふと考える。
そういえば家出て来る時思いっ切り手を振り払っちゃったな。
まあ急に手掴んで来た青峰くんが悪いんだけどちょっとした罪悪感が生まれる。
それから…確か女の子が来る前に『お前さ、』って何か言い掛けてたけどアレはなんだったんだろう。
言い掛けて止められるとその先が気になるのが人間の性だと思う。
考えたって分かるはずもないしかと言ってそれを掘り返して青峰くんに聞くのも憚られるのだけど。

何をするでもなく長居して気付けば夜の10時を回っていた。
お兄ちゃんが居たら怒られる所だ。
そろそろ帰ろう。
うーんと伸びをすれば真太郎は読書を止めて立ち上がった。
「送るのだよ」
「え、いいよもう遅いし」
「遅いから送るのだよ、馬鹿め」
「…馬鹿馬鹿言い過ぎだよ、お願いします」
「ふん」
言い方は酷いけど真太郎は優しい。
その優しさに甘えて家まで送って貰った。
「ありがとう、真太郎」
「ああ、またな」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
挨拶を交わして真太郎の後姿を見送った。
いつも通り鍵を開けて家に入る。
その瞬間聞こえて来た金切り声に思わず耳を覆う。
「酷いっ!私たち付き合ってたんじゃなかったの!?」
「うるせーな。勝手に勘違いしてんじゃねーよ」
「嘘!そんなの信じないから!」
「…勝手にしろ、めんどくせえ」
「なッ!」
「勘違いすんのはいいけどな、もう家まで押し掛けて来んなよ」
「っ!」
…ゲロゲロ、酷い修羅場だ。
このままではマズイとそっと玄関を開けて外に出る。
玄関の脇で深呼吸をしてコンビニにでも行くかと踏み出した所で、物凄い勢いでドアが開いた。
あ、危な!
もう少し踏み出していたらドアが顔面直撃する所だった。
髪を振り乱して肩を怒らせて帰って行く女の子の後姿を見送る。
多分私が見た一番最初の彼女だ。
玄関でキスしてた子。
私が真太郎の家に行く前に来た子じゃない。
「ほーら、やっぱりね」
「何が『やっぱり』なんだよ」
「!?」
突然響いた低い声に振り向けばドアを手で支えた青峰くんが私を見ていた。
やば、見つかった。
「何やってんだお前。早く入れって」
「あ、あっさりしてますね」
「あ?意味分かんねえ」
踵を返して気怠そうに家に上がった青峰くんに続いて私も玄関を潜った。
「たーだいまー」
「………おかえり」
「え」
ボソッと聞こえて来た言葉に固まる。
聞き間違いじゃ無ければいま『おかえり』って…

スタスタと歩いてリビングを通過し自室に消えた青峰くんの背中を、ただ茫然と見つめた。


『ただいま』と『おかえり』
赤の他人が交わすにはそれは酷く不自然な

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