何故かあれから青峰くんはよく私に話し掛けて来る様になった。
一方の私はと言えばその行動に戸惑っている。
元々男は嫌いだ。
真太郎や高尾以外の男とは話だってしないし、そもそも近寄らないから知り合わない。
青峰くんと同じ家に住む事になったのは本当に事故みたいなもの。
真太郎たちみたいに仲良くなれるとも思えない。
だから…戸惑っている。
「お前、なんで緑間と仲いいんだ?」
「え…」
「つるんでんじゃねーか、大学で」
「つるんでるって…」
「あんな目立つ変人と一緒に居りゃ目立つに決まってんだろ」
「は?」
「…なんでもねーよ」
「はあ…」
「あー、秀徳繋がりか」
「…うん」
「ふーん」
こんな風に。
休日だっていうのに何処にも出掛けず、リビングに顔を出した私に話し掛けて来るのだ。
調子が狂うというか正直ほっといて欲しい。
飲み物とおやつを持ってそそくさと部屋に戻ろうとすればまた声が掛かる。
「なあ」
「…な、何」
「お前さ、」
ピンポン
青峰くんの言葉を遮ってチャイムが響いた。
続いて玄関の外から声が聞こえて来る。
『青峰くーん』
…ほら。
やっぱり女の子じゃん。
彼女居ないとか別に嘘つかなくたっていいのに。
そう思いながら青峰くんを見遣ると彼も同じ様にこっちを見る。
この嘘吐きめ、なんて思いを込めて少し眉間に皺を寄せてから言葉を吐いた。
「私は部屋に籠ってるから安心して」
「あ?」
「出来れば音は抑え目でお願い」
「は?」
言いながら背を向けて部屋に向かった。
そういえばこの前の子とは声が違う気がする。
結局とっかえひっかえして遊んでるわけだ。
妙なイラつきを覚えてハッとした。
…関係ないんだから何も気にする事はないじゃないか。
ドアを閉める前に一度顔を上げればまた目が合う。
無意識にまた顔を顰めてしまった。
「はあ?おい!」
「じゃ」
呼び掛けに応える事も無くパタリとドアを閉めた。
防音で良かった。
この間も最中の声は聞こえなかったし多分大丈夫だろう。
女の子が来るなら早めに教えておいて貰いたいものだ。
分かってれば外出したのに。
気付けば私は真太郎にメールしていた。
返事はすぐ来た。
さすが真太郎。
「また女の子来た」
『だから言っただろう。大丈夫か』
「うん。部屋に籠ってる」
『出て来るか?』
「真太郎暇なの?」
あ、返事来なくなった。
「嘘ですごめんなさい真太郎様」
『来るなら女に見つからない様に出て来い』
「ラジャ!ありがと真ちゃん大好き!」
『止めろ。気持ちが悪い』
携帯だけを手にしてそっとドアを開けた。
シンと鎮まり返ったリビングに胸を撫で下ろして部屋を出る。
玄関に辿り着いてふと違和感に気付く。
青峰くんの靴はあるけど彼女の靴がない。
すぐに帰ったのかな?
リビングの方から聞こえたカタンという音に振り向けば、扉に手を掛けた青峰くんが私を見ていた。
「どっか行くのか?」
「うん」
「女もう居ねーけど」
「は、はあ…まあ行くって約束しちゃったし」
「男んち?」
「違うよ。真太郎」
「…男じゃねえか」
「あ、そっか」
「泊まるのかよ」
「まさか。じゃあね」
「あ、おい」
「!」
靴を履こうと向きを変えれば突然手首を掴まれた。
2人の動きが止まる。
な、何この状況。
ハッとした瞬間、私は勢いよくその手を払い除けていた。
驚いたのか青峰くんの目が見開かれている。
「!」
「あ」
「わ、わりぃ」
「否…じゃあ。い、いって、来ます」
「お、おう」
よく分からない微妙な空気の中何故か呑気に出て来た『いってきます』という言葉に少しの羞恥が湧いた。
この妙な動機はきっと
いつもの男嫌いの条件反射だ
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