結局これと言って盛り上がる会話も無く青峰くんと歩いた。
それはそうだ。
まともに話した事なんか無いのだから。
話した事と言えば『換気扇の調子が悪いから直して貰うか』とか『ケーブルテレビの接続も悪い』だとか家の事。
思ったよりも普通に向こうから話し掛けられて微妙に戸惑った。
大学に着いて構内を並んで歩いていると気のせいと思えないくらいに周りが少しざわめく。
どこからともなく『次はあの子か』『随分地味だな』なんて声が耳に入って思わず勢いよく辺りを見回してしまった。
おかしい点が2つ。
『地味』ってなんだ!
派手でもないけど地味でもないけど、でもまあどちらかといえば地味なんだろうけど…
考えてて虚しくなったので止めた。
一番の問題はこれだ。
私は断じて青峰くんの『次』の相手なんかじゃない。
ていうか、ほら。
やっぱりとっかえひっかえしてるんじゃん。
嘘つきめ。
気付けばいつも自分が講義を受ける4号館前に着いていた。
『じゃーな』と言って向きを変えさっさと遠ざかる青峰くん。
そういえば青峰くんがいつも使ってる教室って別棟だったような。
以前真太郎に教えて貰ったのを思い出す。
確か6号館。
数字は近くても少し離れた所にある。
そこに行くには門でサヨナラが一番楽なルートだったはずだ。
まさか…
「…送って、くれたって事?…うっそ」
「うっそーん」
声が重なった。
振り向けばニヤニヤと含み笑いを浮かべた高尾が立っていた。
「遅い」
「真太郎、おはよ」
「おっはよ〜真ちゃん」
「…高尾、なんだその顔は。朝から鬱陶しい」
「え〜、真ちゃんひっでえ」
ニヤニヤを隠そうともしない高尾と教室に入れば、ハムスターのぬいぐるみを机に置いて姿勢良く座る真太郎が居た。
面白がる高尾が真太郎にさっきの光景を事細かに説明した。
私と青峰くんを門の辺りで見つけて尾行していたらしい、なんてヤツ!
「…さすがおは朝なのだよ」
「ん?どったの?」
「今日の俺の運勢は『驚きの事件に遭遇』、ラッキーアイテムは『ゴールデンハムスターのぬいぐるみ』」
「真太郎持ってるじゃん、ハムスター」
「これは『ジャンガリアンハムスター』なのだよ」
「ぶはは!種類違うとやっぱ駄目なのかよ〜!」
「重要な事だ!…それより…どういう事なのだよ、名前」
「どうもこうも…気付いたら一緒に登校してたんだよ」
私は事の成り行きを2人に話した。
勿論、朝食の事から全て。
「同棲してるみたいじゃん」
「ふざけた事を言うな!高尾!!」
「ほんと、止めて」
「だって同じ屋根の下で暮らしてて2人で朝食摂って一緒に家出て登校してんだぜ?」
「ちょっと高尾!声大きいから!」
「…やはり青峰の皮を被った偽者なのだよ」
「真ちゃんってば、またそれ〜?」
「あの青峰がわざわざ遠回りしてまで女を送ると思うか?」
「「思わない」」
真太郎の言う『偽者説』はまあ有り得ないとして。
やっぱり意味が分からない。
「でもさぁ、彼女居ないってマジで言ってんの?あの人」
「言ってたよ」
「あんだけ女とっかえひっかえしといて〜?」
「全くだ。そんなの嘘に決まっている」
「知らないよ。でも言ってたの」
「でも名前だって現場見ちまったんだろ?」
「…まあね。てか高尾、それ思い出させないでよ」
「っはは、わりわり!」
「どうでもいいけど。迷惑さえ掛けられなきゃ」
「とにかく、あの節操の無い野獣には必要以上に近付くな」
「分かってますよー、だ」
被害者は私だと言うのに…これじゃ私が何かして怒られてるみたいだ。
説教染みた真太郎の話をくどくどと聞かされながら、溜息混じりに講義の準備をした。
そういえば朝のお礼言ってない
また夕飯サービスすればいいかと1人呟いた
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