青に染まる | ナノ

懐かれる

放課後いつものようにバイトに行くと先に入っていた先輩が教えてくれた。
バイトが休みだった昨日『青峰くん』がまた来たそうだ。
「名前ちゃん、あの立ち読みくんに何かしたの?」
「え?」
「昨日さ、『いつもの女、今日はいねーのか?』って聞かれたんだけど」
「そうなんですか?」
「うん。近くで見ると更に迫力あるね…で、何かやらかしたの?」
「いや、やらかしてはいないと思うんですけど」
うん、まずい。
廃棄の雑誌勝手に持ち出したの、いくら先輩でもバレたらまずいよね。
嘘つくのも忍びないけど…
「あー、一昨日!バイト上がりに店の外で遭遇して…その、話してみちゃったというか何というか」
「何っ!?まさかナンパされた!?」
「いやいやいやいや!断っじて違います先輩!」
ひええ、変な誤解されると困る!
慌てて否定して誤魔化せばなんとか納得してくれたようだ…危ない。
なんて先輩と話し込んでいると突然ガクンと体が傾いた。
「いだぁっ!!」
「!!…あ、キミ昨日の…」
「よお、今日は居るじゃん」
「え」
2人して背中向けてた上に話に夢中になってて全く気付かなかった。
私を膝カックンした犯人は『青峰くん』だった。
どうでもいいけど彼の膝の位置が高過ぎて膝カックンになってない。
腿のちょっと下が痛いって一体どういう事だ!!
「ちょっと面貸せよ」
「ええっ!今バイト中です」
「(名前ちゃんやっぱ何かやらかしたんじゃないか!?)」
「んだよ、何時に終わんの?」
「…今日は7時、だけど」
「はぁ?おせえな!早く上がれ」
「え!いや、それ無理」
「つまんねーな」
「なんか酷い!」
隣からの先輩の視線が痛い。
そりゃそうだ。
怖い関わりたくないと言ってた相手と普通に話してるんだから。
私もびっくりだ。
「ま、いーや。7時な」
「うん、…え?」
「そんぐらいの時間に外にいっから」
「は?」
「しっかり働けよ、じゃな」
「え、じゃあなって、は?」
言いながら背を向けて、片手をポケットに突っ込んで空いた手をプラプラと振りながら去って行く青峰くん。
バイトが終わる頃また来るって事?
ポカンとしていると先輩が勢いよく詰め寄って来た。
「名前ちゃん!何!?付き合ってんの!?」
「違いますっ!!」
全力で否定して全力でバイトした。


「よぉ、お疲れ」
「…ど、どうも」
「お前それ、○○女の制服じゃねーか」
「うん」
「確かあそこってお堅い女の集まりだろ?お前みたいなのも居るんだな」
「それ結構失礼だよね」
「気にすんなって。つかお前、名前何?」
「苗字…」
「ははっ!普通下の名前名乗んだろ!おもしれーヤツ!」
「…名前」
「ん。名前な」
「いきなり呼び捨て!?」
「あ?いーだろ別に。俺は、」
「青峰くんでしょ?」
「おー、知ってんのか!」
「うん。前桐皇のバスケ部の人たちがここに来た時に」
「あー、あん時か!あ、名前!」
「な、何?」
「俺が部活サボってここで立ち読みしてんの、ぜってー言うなよ!」
「…えー」
「言ったらどうなるか…」
「どうなるの?」
「…どーすっかな」
「っふ、何それ」
「ま、お前なら言わねーだろ」
「あれ。なんで私そんな信頼されてるの」
「マイちゃん特集くれたからな!ぜってーいいヤツだろ」
「それだけで!!」
「あ、そういやお前もあの事秘密にしろとか言ってたよな!」
「…言ったね」
「なら取引成立だろ!お互い秘密!」
「はぁ、やっぱり。…ま、いいか」
「うし。じゃ、どっか行こうぜ!」
「ええ!!」
いきなり手を掴まれたと思ったらぐいぐいと引かれる。
振り向くと店内でこれでもかと目を見開いてる先輩と目が合った。
明日は色々聞かれそうだなと覚悟して、引かれるままに足を進めた。


うわあ…
怖いと思ってた人に懐かれた。

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