青に染まる | ナノ

苦悩する

「名前ちゃん大丈夫?」
「!…え?」
「最近ボーっとしてる事多くない?」
「…そうですかね?」
「何かあった?」
「いや、特には…」
「彼氏の事とか?」
「いやいや!だからあの人は彼氏とかじゃないんですってば!」
「うーん、そうなの?」
先輩はやっぱりどうしても私と青峰くんが付き合ってるという事にしたいらしい。
『青峰くん』
自分で思い浮かべたその名前に何故かチクリと胸が痛んだ。
この間ベチンとおデコを引っ叩いてしまってから…否、実際はその前からなんだけど、青峰くんと連絡を取っていない。
あの日若松くんを家まで送り届けようと思ったけど、私の家の前で『女に送られるなんて!』と言ってふら付きながら自力で帰って行った。
私は見ていなかったのだけど青峰くんにお腹を蹴られたって言ってた。
とりあえず帰宅後に大丈夫だったとメールがあったのでちょっと安心。
とは言え…
青峰くん、暴力振るうなんて。
顔は怖いし自分勝手だし風貌もイカついけど、そういう事はしない人だと勝手に思っていたので結構ショックだ。
若松くんの話ではそんなに強く蹴られたわけじゃなく、鳩尾に上手くヒットしてしまったから辛かったのだと言っていたけどそれでも。
私はとにかくモヤモヤしていた。
青峰くんにもだけど、それ以上に自分に。
暴力を振るった人に暴力で制裁を加えてしまった。
私も結局やったのは同じ事。
思い出しただけで手がビリビリと痺れるような感覚に陥る。
…謝りたい。
あの時は青峰くんにあんな事して欲しくなかったって思って、
あんな怖い青峰くんは見たくないって思って、
カッとなって。
ああ、結局私は青峰くんの事が凄く気になっているんだ。
今だってバイト中だって言うのに頭に浮かぶのは青峰くんの事ばかり。
先輩にも心配されてしまう程だ。
自分が思っている以上に青峰くんの存在は大きくなっていたみたい。
「…あ」
最早癖になってしまった、外を歩く人をチェックする事。
今日も例に違わずふと外に目を向ければ、今私の頭の中の殆どを占める原因の彼が歩いていた。
相変わらず気怠そうに。
こちらに一切視線を寄越さないその姿を見て、ああきっと私の事を怒っているのだと思い知る。
怒っているだけならまだマシなのかもしれない。
もう私なんか興味ないと、どうでもいいと思われているとしたら…
ハッとした。
そんな事考えるなんて…
やっぱり結局の所私は…。
青峰くんに『どうでもいい』だなんて思われたくないって事。
前みたいにウザイくらいでもいいから話し掛けて来て欲しいと思っている事。
実感してしまった。
かと言ってこんな状況で私から軽々しく話し掛ける勇気なんてないわけで。
ああもう、なんでこんなに悩まなきゃいけないのだろう。

「名前ちゃん!名前ちゃん!!」
「!!」
暫く意識がぶっ飛んでいたらしい。
バイト中にホント何やってるの私!
先輩の声にバッと顔を上げると、目の前に広がったのは青。
突然の出来事に目をしばたたかせていると、久しぶりに耳にする低い声が響いた。
「…よぉ」
「!」
凄く気まずそうな表情の青峰くん。
私にチラリと視線を寄越してすぐ、思い切り目を逸らした。
「名前ちゃん。あと15分だしもう上がっちゃいなよ」
「え!でも」
「俺が上手い事やっとくから」
「そ、そんなの駄目ですよ」
「いいから!」
「!」
「ね?これで帰らなかったとしたらさ、彼ずっとここに居座るつもりなんじゃない?」
「…」
そう言われて青峰くんをもう一度見やると、立ち位置を変えずにじっと佇んで全く動く気は無さそうだ。
先輩の見解は正しかったみたい。
私は先輩に深々と頭を下げて申し訳ない気持ちいっぱいで先に上がらせて貰った。
外に出ると少し離れた所に居た青峰くんがゆっくりと近付いて来た。
だけど俯いていてハッキリと表情は読み取れない。
それが余計に不安を駆り立てた。


悩んで考えて思って理解する
彼が自分から離れて行くのが怖いのだと

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