3人で帰った日から、青峰くんからメールが来なくなった。
若松くんによると部活に全然出ていないんだとか。
顔も出さなくなったらしい。
体調が悪いのかと思えばさつきちゃんの話ではピンピンしてるって。
何を言っても部活には出ないとさつきちゃんが憤慨していた。
どうでもいいけどいったいなんなのだ。
散々自分勝手にメールしてきておいて急に一切しなくなるってなんなのだ。
コンビニにも来ないし。
「別に関係ないけどね!」
「…どしたの?名前ちゃん」
「あ、いや。なんでもないです」
いけない。
バイト中だというのに思わず大きく口に出してしまった。
悶々としながらふと何気なく外に目をやると…歩道に青い頭。
無意識に体が動いていた。
「青峰くん!」
「!」
声を掛けると凄く驚いた表情の青峰くんがその場に立ち止まった。
のだけど…
「え!?ちょっと!」
一瞬目を合わせただけでスタスタと歩き出したのだ。
なんなの!?
さすがにバイト中に抜け出すわけにもいかず、先程よりも更にモヤモヤを抱えたまま仕事に戻る事になった。
バイトを終えて外に出ると若松くんが立っていた。
「あ、苗字!お疲れ!」
「お、お疲れ様」
最早なんの違和感もなくタメ口だ。
そして彼は私を待っていたらしい。
「一緒に帰ろうぜ!」
「…うん」
「ぃよっしゃ!!…あ」
「ぷ」
若松くんは凄く騒がしいけど素直に色々表現する所は可愛いと思う。
でももう一度…騒がしいけど。
帰り道はほとんど彼の部活の話を聞いていた。
楽しそうに話すその顔を見て純粋にバスケが大好きなんだろうなと思う。
微笑ましいなと笑っていると目を見開いた若松くんが私を凝視していた。
その頬は赤い。
ちょっと待って。
そんな顔されたらこっちが恥ずかしい。
「苗字!」
「な、何?」
「青峰のヤツなんかより、俺の方が絶対あんたの事っ」
「!」
これって…物凄く恥ずかしい事を言われる!?と思った瞬間、横から伸びて来た手に勢いよく引っ張られた。
勿論バランスを崩した私はそっちに向かってどんどん体を傾ける。
ドサッという音と固い何かにぶつかった感覚、そして唸るような低音が響いた。
「おい若松…何やってんだよてめー」
「青峰!!」
声のした真上を見上げると、人でも殺しそうな程目をギラつかせた青峰くんが居た。
こ、怖い!怖過ぎる!!
腕を掴む手には力が込められてちょっと痛い。
これでもかと引っ張られた状態のままなので体を離そうにもなかなか離れられない。
ジタバタしていると頭上から声が降って来た。
「動くんじゃねーよ。ちょっとじっとしてろ」
「な!」
何故私がそんな事を言われなきゃいけないのか。
喧嘩なら2人でやっていただきたい。
いや、喧嘩は困るけど。
だいたい私、誰かに取り合われる様なキャラじゃない!
そう、そこ一番重要!
そんな私を放置して2人の言い合いが始まる。
「青峰…放せよ」
「あ?うるせーよ」
「んだと?」
「てめーはこっから1人で帰れよ」
「は!?苗字は俺が送ってる途中だぞ!お前こそどっか行けコラ!!」
「……ぁあ?」
「!っんだよ」
睨みを利かせた青峰くんに若松くんがたじろいでいる。
益々顔を見るのが怖い!
「っ青峰お前!マジでいい加減にしろよ!」
「…」
急に黙った青峰くんを不思議に思って見上げようとした瞬間、私の腕が解放される。
ホッとしたのも束の間、ドスっという鈍い音が響いた。
「っぅぐ!!」
「!?ちょ!!」
振り向けば歩道に蹲る若松くんと、それを凄い形相で見下ろす青峰くん。
何が起こったかは見てはいないけれど、明らかに青峰くんが暴力を振るった事が見て取れる。
「若松くん!大丈夫!?」
「んの、ヤロ…」
「名前…そんなヤツほっといて帰んぞ」
若松くんの元に駆け寄った私に冷たい声が浴びせられる。
私の体は勝手に動いていた。
ベチンッ!!
鈍い音が響く。
手、痛い。
ジンジンする。
目の前の青峰くんは唖然とした表情で立ち竦んでいた。
ああ、やっちゃった。
定番の頬じゃなくて…何故かおデコ叩いちゃった。
けど、そんな事構っていられない。
私はもう一度若松くんの所にしゃがみ込んで、彼の腕を持ち上げて立たせた。
送って行かなければ。
もう振り向く事をせず、私は若松くんとその場を後にした。
去り際に聞こえた気がしたのは
力なく囁かれた自分の名前
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