犬猿の仲とはよく言ったものだなと思う。
私の目の前で『ガルルル』とか『キィーッ』とか言い出しそうな2人。
言わずもがな、青峰くんと若松くんだ。
私が学校が終わって校門で友達と別れた後、少し離れた塀の前に居た2人を見つけてしまったのだ。
なんでかってそんなのうるさかったからに決まってる。
通り過ぎる人たちが2人を避けながら歩いてるし。
これは見つかる前に…
「あ!苗字!!」
「あ!?おい名前!!」
こっそり帰れるわけがなかった。
お互いを押し合いながらこっちに向かって猛進して来る。
怖過ぎる。
「2人とも…部活は?」
「今日は休みなんだ!」
「そ、そう」
「名前、お前も今日バイト休みだろ?」
「なんで知ってるの!」
「お前のセンパイってヤツに聞いた」
「…(せ、先輩ぃい)」
「なあ苗字!暇ならどっか寄らねえか?」
「おいてめえ!勝手に誘ってんじゃねーよ!」
「んだと?青峰には関係ねえだろ」
「ああ?名前は俺と帰るって決まってんだよ!邪魔だ邪魔!」
「お、お前…先輩に向かっていつもいつもっ」
「ちょ。ストーーーップ!!」
勘弁して!
学校の前で大声で揉めるの!
ただでさえ女子高の前ってだけで目立ってるのに!
私は2人の腕を引っ掴んで、逃げるように学校から離れた。
「っはぁー、疲れた」
「名前、お前マジで体力ねーな」
「黙れよ青峰」
「…やんのか?コラ」
「こらこらこらこら!」
「「…チッ」」
2人揃って舌打ち。
こういう所は息ピッタリなのに。
ジッと2人の顔を見ると気まずそうな表情。
一応反省しているのだろうか。
「悪い、苗字。部活が急遽休みになったから…会えるかと思って」
「そ、そっか」
「若松のヤロウが勝手に着いて来やがったんだよ。名前は俺と帰るって決まってんのによ」
「青峰くん、それ決まってはいないから」
「んだよ!決まってんだろ?つかもう今決めろ!よし決まった!」
「あ、青峰くん…」
「…青峰、お前そんなキャラだったか」
「ああ?てめえには関係ねーよ!」
「関係大有りなんだよ!俺だって苗字迎えに行ったんだからな!」
「てめえ俺に着いて来ただけじゃねーか!」
「お前がちょっと前歩いてたってだけだろ!」
「〜〜〜っちょっと!!!」
「「!」」
ホント、口を開けば喧嘩。
なんでこんな人たちに私絡まれてるんだろう。
もう帰りたい。
「悪い」
「…わりぃ」
ちょっとだけしゅんとして背中丸めるの止めて欲しい。
なんだかちょっと可愛いとか思ってしまったじゃないか。
とりあえずこの不穏な空気を打破すべく、私はもう一度2人の腕を掴んだ。
「分かった、3人で帰ろ」
「「げ」」
「げじゃない。嫌なら私1人で帰るから」
「…すんません」
「…わーったよ」
「はい、じゃ帰ろ」
渋々納得した2人の背中を叩いて歩き出す。
うあ、手懐けてるっていうか飼い慣らした気分。
「そういえば若松くんの家ってどの辺なの?反対方向だったら大変じゃない?」
「俺んちは、コイツの家から20分以上歩く」
「そうなの?じゃ同じ方向だけど、結構遠いよね」
「…チャリ通のくせにチャリ置いて来やがって」
「!青峰うるせえぞ!」
「名前と帰りたいからってチャリ置いてくんじゃねーよ」
「べっ、別にいいだろ!」
「分かった!分かったからちょっと静かに!」
「「…」」
「もう、この辺住宅街なんだから」
「「悪い」」
そうこうしているうちに青峰くんの家に到着。
駄々を捏ねて、文句を垂れながら家に入る青峰くんを見送った。
その後は若松くんと帰ったわけだけど。
…私、なんだかんだ青峰くんと帰るのは楽しかったのかなって思った。
別に若松くんが楽しくないとかそういう事じゃない。
青峰くんに強引に手を引かれるのも悪くないかなって。
あれ、私ちょっとおかしいかな。
気持ちの微妙な変化
宙ぶらりんの手がちょっと寂しいだなんて
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