「…お疲れ」
「あ、青峰くんも…お疲れ様」
「あ?何がだよ」
「いやだって走って…あー。いや、部活」
「…おう」
ちゃんと部活には出席したらしい。
エナメルバッグも肩に掛けてある。
話す事ないなと思って直立したまま黙っていると青峰くんが私の手を引いた。
「帰んぞ名前」
「う、うん」
この自然な感じはなんだ。
青峰くんの大きな手はしっかりと私の手を握っている。
歩きながらその手をじっと見ていたら急に妙に恥ずかしくなって来た。
「青峰くん」
「あ?」
「手、繋がなくても私歩けるけど」
「…なんだよ。嫌なのか?」
「あ、いや…嫌とかじゃなく」
「じゃあいいじゃねーか」
「うーん」
「なんだよ」
「なんで一緒に帰ってるんだっけ?」
「は?待ってろって言っただろ」
「うん、それはそうなんだけど」
「変なヤツ。お、そういやよ、」
青峰くんの話に相槌をうちながら歩く。
やけに楽しそうに話すから調子が狂う。
私の質問は流されてしまった。
私が聞きたかったのは、なんで私と青峰くんが一緒に帰ってるのかって事で。
なんで青峰くんは私と帰る気になったのかって事で。
それはつまりなんで私にこんなに構うのかって事で。
それは…。
そこまで考えてハッとした。
別にそんな事気にしなくたって友達と帰るみたいにただ帰ってればいいのに。
私は青峰くんの真意を知りたいって思ってしまったらしい。
単純そうな青峰くんに真意だとかそんな奥深い事は無さそうだけど。
それが知りたいと思ってしまった私は、ちょっとだけ青峰くんという人に興味を持ってしまったのかもしれない。
チラリと大分高い位置にある青峰くんの顔に目をやると、それに気付いた青峰くんが視線を寄越した。
「ん?なんだよ」
「なんでもないよ」
「は?言いたい事あんなら言えって。ずっと黙ってんじゃねーか」
「いや、青峰くんがずっと楽しそうに話してるし、いいかなって」
「…お前の話も聞きてーんだけど」
「え」
「お前の事何も知らねーし」
「それは私も同じだよ」
「だったらなんか話せよ」
そう言って口を尖らせて反対側を向いた青峰くん。
心なしか私の手を握る力がちょっと強くなった気がする。
…照れるといつもこうなるのかな。
こういう所ちょっと可愛いかもと思ってしまう辺り、私はちょっとずつ青峰くんに毒されていってるんじゃないかと思う。
現に…
ちょっとだけ、本当にちょっとだけだけど。
青峰くんがどんな人なのか、もうちょっと知りたいかな、なんて思ってしまったり。
あーあ、私らしくない。
青峰くんの背中を見送る
もう少し話したかったなんて思ってない、と思う
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