「もう無理もう限界もう止まってお願い」
「あ?」
「何!?息一つ乱れてない!」
「なんだよ、歩くだけで疲れてんのかよ」
「歩くって言うか引っ張られてるし歩くの早いし腕痛いし!」
「あー、わりぃ…じゃあ、こうな」
「…放さないんか!」
桐皇からずっと無言で引っ張られる事数分。
私の声でやっと歩くスピードを緩めた青峰くん。
掴まれていた腕が痛い。
やっと放して貰えると思っていたら腕から手に移動しただけだった。
ゴツゴツした大きな手が私の手を握った。
そのまま何事も無かったかのようにスタスタと歩いている。
これ、傍から見たら放課後デートだ。
恥ずかしいんですけど。
「…」
「…」
「…」
「?」
「…」
「青峰くん」
「…」
「青峰くん!」
「…」
「あーおーみーねーくん!」
「!…あ?なんだよ」
「何って、何回も呼んでるのに気付かないから」
「あ、そ」
「あの…何処に向かってるの?」
「…知らね」
「ええ!?」
ボーっとしながら歩く青峰くんに行き先を尋ねたらコレだ。
知らないって…人を連れ回しといてそれは何事だ。
そのまままた黙ってしまった。
チラリと横顔を盗み見るとその表情は眉間に皺を寄せて悶々とした様子…超怖い。
「青峰くん。行くとこ決まってないならもう帰ろうよ」
「…」
「青峰くん」
「…なんだよそれ」
「ん?何が?」
「名前だよ、名前!」
「青峰くん?」
「なんで良は『良』で俺は青峰『くん』なんだよ!」
「は」
「俺も名前で呼べ」
「なんで?」
「いいから呼べっつってんの」
「名前…知らないし」
「はぁ!?」
「青峰くんしか知らない」
「マジかよ!!」
「うん、マジ」
そういえばそうだった。
私青峰くんの名前知らない。
別に呼ぶ事も無かったから気にしてなかった。
「大輝だからな、これから名前にしろよ?」
「…えー」
「っだぁー、そういや番号も聞いてねーし」
「番号…ああ、携帯か」
「教えろ名前!今すぐ!」
「わ、分かったよ」
だから顔怖いんだって!
鬼気迫る表情で言ってくるものだから思わず素直に応じてしまった。
番号を交換しながら青峰くんがポツリと呟いた。
「…良とか若松の番号も知ってんのか?あと今吉サンとか」
「え?知らないけど」
「なんでアイツらと知り合いなわけ?」
「たまたま会ったんだよ」
「たまたまだぁ?」
「うん」
「…会ってんじゃねーよ」
「ええ!?それ私のせい!?」
横暴だ。
そもそも彼らと出会ったのは青峰くんとあのプリクラのせいだって事、分かって貰いたい。
プリクラがなきゃ私だって分からなかったはずだしね。
溜息を漏らすと、不機嫌な声が上がる。
「おい名前…なんだよその溜息は」
「べっつにー」
「…」
「?」
「お前…」
「うん?」
「なんで笑わねーの?」
「はい?」
なんだ今日は。
なんでなんでと聞かれてばかりな気がする。
笑わないって、私普通に笑って…ないか。
「なんで良と絡んでる時は笑ってんのに、俺と居る時は笑わねーんだよ」
鋭い目をこれでもかと据わらせて、そっぽを向いて口を尖らせてるその姿はまるで拗ねてる子供だ。
…ちょっと可愛いじゃないか。
!
いやいや、何考えてるの私は。
こんな自分勝手で強引な事ばかりされて、なんで笑わないのかなんて言われても困る。
いや、だけど…
大きな背中を丸めて拗ねてる青峰くんはやっぱりちょっと可愛い。
笑う…か。
笑おうと思って笑うなんて器用な事出来ないんだけど。
意識して笑うのは難しいな。
「青峰くん」
「…なんだよ」
「ほらほら、いい子だからこっち向いて」
「ああ?…ガキ扱いすんなコラ」
「いいから」
「…」
ゆっくりとジト目を寄越す青峰くんに向かって私は…
「ぶはっ!」
「…何故吹く」
「すげー顔引き攣ってんぞ!」
「何!人がせっかく笑顔作ったのに!」
「ぶははっ!」
結局無理矢理笑顔は失敗に終わり、青峰くんを笑わせる事になってしまった。
私の努力返せ。
青峰大輝くんは自己中で横暴で
怒りん坊で、すぐ拗ねる
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