青峰くんと若松くんを宥めてから少しだけ見学して行く事にした。
ちょっと見たら早々に立ち去るつもりでコート端にポツリと立っていると、関西弁眼鏡が話し掛けて来た。
「名前ちゃんて言うたか?」
「…」
「ああ、ワシはここの部長の今吉翔吉や」
「苗字名前です」
「随分青峰の事手懐けるとるようやけど」
「いや、勝手に寄って来るだけで」
「そら益々興味深いわ」
「私そろそろ帰ります」
「まあまあ、もうちょい見たってえな」
「…私他校生だし」
「見学なんやからええんやない?」
「私が帰りたいの!」
「そういや自分、3年なん?」
「…そうだよ、今吉くんと同じ」
「コンビニで会うた時年下やと思ったんやけど」
「そ、そう」
「若松まで手懐けるなんて大物やな」
「手懐けてないからね」
埒が明かない。
手懐けるって何だ。
そろそろ本気で立ち去ろうと体の向きを変えると、バスケの掛け声とは別の大きな声が響いた。
「おい名前!!勝手に帰ろうとしてんじゃねーよ!!」
「…」
「青峰!余所見してんなよ!!」
「あ?うるせーよ!」
「んだとコラァアア!!」
「…はぁ」
口を開けば喧嘩だ。
いつもこうなんだろうかこの2人は。
深い溜息を吐き出して振り返ると、頭をグリグリと擦り付けて威嚇し合う青峰くんと若松くん。
呆れるしかない。
2人は私の視線に気付いて、チッとかケッとか言いながら練習に戻った。
…案外似てるんじゃ…。
「名前!終わるまで待ってろよ!!」
「お前1年だろ!!苗字に偉そうな口叩いてんじゃねえよ!」
「…駄目だ、これ」
どう転がっても喧嘩。
結局練習が全部終わるまで待った。
見てるのは結構楽しかったから退屈はしなかった。
集中してる時の青峰くんと若松くんはかっこいいと思う。
『お疲れさん』と今吉くんが近寄って来た。
青峰くんが最後まで居るのは珍しいとニヤニヤしながら言う。
その厭らしい目を止めて欲しい。
「名前先輩!今日はありがとうございました!!」
続いて駆け寄って来たのはピンクの髪の女の子。
桃井さつきちゃん。
「いやいや、私は何もしてないんだけど」
「青峰くんを部活に連れて来て下さったんですから!すっごい偉業ですよ!!」
「えー…」
偉業ってどんだけなの。
目をキラキラさせながらそんな事を言われても非常に困る。
さつきちゃんと少し話していると、その横を顔を隠しながら通る男の子を発見。
「あ」
「!!すすすすいません!!」
「良くん」
「なんや、桜井も知り合いなんか」
「すいませんすいません!」
「あはは、ちょっとね」
「自分めっちゃ顔広いなぁ」
「別に嬉しくないかなー」
「すいません!うあああすいません!!」
「良くん、謝んなくていいから」
「ひやあああ名前さん、すいません!」
「ふ、あはは!」
「おい良!名前さんってなんだよ!」
帰り支度が出来たらしい青峰くんが物凄い勢いで走って来た。
顔が怖い!!
普段に増して怖い!!
「お前良とも知り合いなのか!?」
「知り合いっていうかなんていうか」
「すいません!俺帰ります!お疲れ様です!」
「おいコラ良!!」
「逃げた、ふふ」
「…何笑ってんだよ」
「え?だってあの子なんか憎めないんだもん」
「…おい名前!帰んぞ!」
「ええ!?勝手!!」
「うぜえのが来る前に帰んだよ!」
「誰それ」
「若松のヤロウだよ!」
「うわ!ちょ、ちょっと!」
私の腕を強引に引っ張って体育館を後にする。
遠くから今吉くんの声が聞こえた。
「名前ちゃん、青峰ん事頼むでー」
そんな軽い感じで言われても…
頼まれても困る。
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