本日の授業全て終了。
校門までの道を歩いていると異変に気付く。
なんだか校門の辺りが騒がしい。
何かあったのかと目を凝らして見た私はピシリと音でもするような勢いで固まった。
何故!?
なんで青峰くんが居る!?
ここは女子高だ。
男子が居るだけで目立つというのに背は高い、目付き悪い、ガラ悪い…こんな男子を見たら引くだろう。
校門の脇でなんとも気怠そうに立っているその姿は異様だ。
皆がざわつくのも無理はない。
まあとりあえず青峰くんがここに居る理由なんてもう十中八九…
「おい名前!おっせーぞ」
…こんな事だろうと思った。
青峰くんが私に向かって声を掛けた瞬間、皆の驚きの視線が私に突き刺さる。
ここで私が青峰くんと仲良さげに話し出したら間違いなく面倒で重大な誤解が生じるだろう。
無理があるけど目は合ってないし聞こえなかった事にしてこの場を切り抜けようと足を進める。
「名前!」
「!!」
なんて通じるわけなかった。
あっさり腕を掴まれた。
「あ、青峰くん」
「お前聞こえなかったのかよ」
「あははは、ごめん」
「ったく、しっかりしろよな」
「…今日はどしたの」
「おー。見りゃ分かんだろ?迎えに来た」
「何故」
「さーな」
「えー」
そんな会話をしながらも私は青峰くんに腕を引かれていつの間にか歩き出していた。
なんだこの自然な流れは。
背中に皆のどよめきを浴びながら引かれるままに青峰くんの隣を歩く。
明日は本格的に面倒な事になりそうだ。
「ねえ、何処行くの?」
「桐皇」
「…え?」
「部活だよ、部活」
「ええ!?なんで私が桐皇に行くの!?」
「いーだろ別に」
「いやいや、良くないからね」
「なんでだよ」
「私何しに行くの!?」
「俺が相手ぶっ潰してんのをただ見てりゃいーんだよ」
「益々意味が分かんないんだけど」
あっという間に桐皇に着いた。
実は割と近い所にあった事に驚く。
と同時になんだか先が思いやられる。
私の手をぐいぐいと引っ張って辿り着いたのは体育館。
バスケ部のボールの音や掛け声が響いていた。
「こっち」
そう言われて連れて来られたのは部室。
私、完全に部外者なんですけど。
入るなり服を脱ぎ始めた青峰くんに慌てて背を向けた。
「コラ!いきなり脱ぐな!」
「あ?別に見られたってどうって事ねーよ」
「私があるんです!」
「くはっ!変なヤツ」
「…私は正常だ」
「よっしゃ、行くぞ」
「もう!自由過ぎ!!」
青峰くんはさっさと着替えを終えてまた私の手を掴んで体育館に向かった。
すれ違う生徒たちが振り返って私たちを見ている。
穴があったら入りたい。
遠慮も無しにガラッと大きな音を立てて体育館の扉を開ける青峰くん。
一気に皆の視線が集まる。
もう逃げたい。
「青峰、ようやっと来たか…あれ」
最初に声を掛けて来たのは眼鏡だ。
私の事に気付いたらしい。
「コンビニの子やん」
「ど、どうも」
「うちの青峰が世話んなっとるらしいな」
「世話してるつもりはないんだけど」
「っはは!まあ、適当に座って見てったらええよ」
「…はぁ」
「青峰、もう入れるか?」
「おー」
遅れて来た青峰くんに怒りもせず練習に戻る眼鏡。
青峰くんも謝る気は全くないみたいだ。
こんなのでいいのかバスケ部。
「あーっ!!!」
突然大きな声を響かせたのは…
「あ…若松くん」
「苗字!」
「一応私年上」
「あ、悪い。なんか違和感なくてよ」
「いや、もういいけどさ」
汗だくの若松くんが駆け寄って来た。
と同時にさっき眼鏡とコートに向かったはずの青峰くんが振り返る。
若松くんと私を交互に見て鋭い目を更に細めてこっちに戻って来た。
「おい!何名前としゃべってんだよ」
「ああ?てめえ青峰!遅れて来てなんだその態度は!」
「うるせーよ、あんたもとっとと練習戻れよ」
「んだと青峰!!それはこっちの台詞だコラ!!」
「つかなんであんたが名前と喋ってんだよ」
「お前には関係ねえよ!」
「はぁ?粋がってんじゃねーよ」
この2人はどうにも相性が悪いらしい。
はぁ…猛烈に帰りたい。
「ほらほら!喧嘩してないで早くバスケしたら?」
「苗字!コイツは1回シメねえと分かんねえんだよ」
「あ?そりゃあんただろ」
「んだと青峰コルァアアア!!」
「ストップストップ!ほら青峰くん!私にバスケ見せてくれるんじゃなかったの?」
「…おー」
「若松くんも!まだ途中なんでしょ?」
「…おう」
「はい、いってらっしゃい」
ポンと2人の背中を叩けば渋々といった様子でコートに別れて行った。
それを見ていた眼鏡が、ほうと感嘆の息を漏らしたのは見なかった事にしたい。
なんで私がこんな目に。
捕まるとこういう事になるらしい。
もう二度と御免だ。
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