人間誰でもストレスは感じる。
吐き出す場所は必要だけど。
そうかそうか。
私は非常に面倒な役割を問答無用で押し付けられたという事か。
今目の前にはキラキラの仮面が剥がれた人間が1人。
私に向かって1日溜め込んだ怒りをぶつけ、汚い言葉を吐き続けている。
しかも顔怖い。
目付きがやばい。
他の女の子たちが見たら一大事だ。
「…ふざけやがって」
「一言だけ言わせて。それ私の台詞」
何故かって…
昨日日直だったはずの私は今日も放課後同じように日誌を書いている。
原因は目の前の男だ。
『黄瀬、苗字。お前ら日誌出し忘れで日直もう1回な。しっかりしろよー』
黄瀬コノヤロウ。
昨日出しといてって言ったのに。
自分でやれば良かった。
溜息を漏らして立ち上がると腕を掴まれる。
なんとなく予想通り。
「日誌、私出して来るから。部活どーぞ」
「話、まだ終わってねえスよ」
「…それ、また明日聞いてあげるから」
「はぁ?何その上から目線」
「だって聞いて欲しいんじゃないの?」
「そんなんじゃない」
「じゃ。…バイバイ」
「あっ!ちょっと待、」
ガラガラ
丁度いいタイミングで教室のドアが開いた。
そこに居たのは救世主だ。
「笠松先輩、こんにちは」
「おう!苗字!」
「笠松先輩!?」
「日直の仕事終わったのでそこの黄色い人連れてっちゃってください」
「サンキューな!おい黄瀬!お前ちゃんと仕事やったのか?苗字さんにばっかやらせてねーだろうな!だいたいお前のせいなんだろコレは!まったくお前は」
「ちゃんとやったッスよ!ぶ、部活!部活行きましょう先輩!」
…言葉戻ってる。
暴言スイッチがオフになったらしい。
「じゃあ先輩、頑張って下さい」
「おう!サンキュー」
「…苗字さん…俺には何もねーんスか」
「…」
「甘ったれてんじゃねえよ!行くぞ黄瀬!」
「い、今行くッス!」
「…頑張んなよ、黄瀬」
「!!」
つい声を掛けたのは気まぐれ。
特に他意はない。
日誌と荷物を抱えて教室を出た。
帰り道。
暇だったから本屋に寄った。
入ってすぐの棚に見慣れた黄色が表紙を飾る雑誌を発見。
なんとなく周りを見回してから手に取る、なんとなくだ。
パラパラと捲れば『黄瀬涼太に聞きたいコト!』なんてコーナーが目に入った。
今一番ハマっている事、バスケ。
最近買った物、バッシュ。
尊敬する人、主将。
なるほど、バスケに関わる事が多い。
あんな闇を抱えててもやっぱりバスケは大好きだって事なんだろう。
当たり障りの無い質問が続いて最後の方…ここはきっと沢山の女の子が気になる所だ。
今付き合ってる人は?、バスケ一筋ッス。
好きな人は?、好きな人は居ないッスねー。
好きな女性のタイプは?、俺を見てくれる人。
『俺』を見てくれる人、か。
彼の言う『俺』は、群がる女の子たちが捉える『俺』とはきっと異なる。
外見だけじゃない『黄瀬自身』。
って私、何分かったような事考えてるんだか。
私は単なる捌け口。
別に彼自身を知ってるわけじゃない。
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