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見慣れた表情。
吐き出された激情。


今日の黄瀬は異常なまでに笑顔を振り撒いている。
女の子たちは皆キャーキャー言っているけど私は逆に怖い。
さっさと帰りたい所だけど生憎今日は日直で、日誌を書くという作業に追われていた。
更に不幸な事にもう一人の日直は黄瀬だ。
ゴミ捨てに行った黄瀬が帰って来る前に日誌を仕上げて帰ろうと目論んでいると廊下から声が聞こえて来た。
チラリと廊下に目を向けると、ドアの近くに誰かが居る。
黄瀬と…ああ、最近黄瀬に並んでモテるって噂の、モデル張りにスタイルが良くて可愛い女の子だ。
気まずいので知らんぷりして耳だけを傾けてみる。
あ、勝手に聞こえて来るんだからこれは不可抗力ってやつだ。
「黄瀬くん、好きな子居ないなら私と付き合ってよ」
「え?唐突ッスねー」
「今私彼氏居なくって、黄瀬くんならカッコイイし隣に居ても自慢出来るし」
「…そんな事ないッスよ」
「謙遜しちゃってー!私とならその辺の子と違って黄瀬くんも恥ずかしくないでしょ?」
「あはは!俺なんかにキミは勿体ないッスよ」
「えー!黄瀬くんて結構真面目なの?」
「んー、これ真面目って言うんスかね?」
「言う言う!ホント、黄瀬くんが彼氏とかステータス高いよ」
「はは」
「あれー、今回はお断りな感じ?」
「申し訳ないんスけど、今はそういうの特に考えてないんで」
「そっかー、残念!また声掛ける!」
「あはは」
…。
会話の次元が違う。
あの女の子相当自分に自信があるんだな。
ステータス、ね。
あんな事言われたら物みたいに扱われてる感じで、私は嫌だな。
ガラガラッ!!
「!?」
突然大きな音を立てて閉まったドア。
ちょっとちょっと、そんな強く締めたら窓ガラス危ない。
振り向けば黄瀬が教室後方のドアの前でこっちに背を向けて立っている。
前に向き直って一応声を掛けた。
「ゴミ捨てご苦労様。後日誌だけだからお先にどうぞ」
「…」
返事が無いけど早く帰路につくべく私は日誌を書き進めた。
のだけど…
「黄瀬…書けないんだけど」
「…」
無言で日誌の上に大きな手を置く黄瀬。
その表情は下を向いていて読み取れない。
だけどなんとなく予想はついてるというか間違いなく…
「顔、崩れてるよ多分」
「うるせえよ」
「わあ怖い」
日誌の上に置かれていた手は今度は私の手首を掴んでいた。
ちょっと痛いよ黄瀬くん。
そして人格変わってるよ。
「反吐が出る」
「…」
「どいつもこいつもステータスだ見栄えだほざいて…」
「…」
「外見ばっかで寄って来て」
「…」
「中身を見るヤツなんか居ない」
「…」
「見ようともしない」
「…」
「…何、黙ってんだよ」
「何か言って欲しいの?」
「っ!?」
「とりあえず1つだけ」
「…」
「気持ち悪い笑顔振り撒いてるより、今のその顔の方がよっぽどイイと思う」
「!!はっ!?」
モデル面台無しの呆けた顔をする黄瀬を一旦放置して、ささっと日誌の残りを書いて立ち上がった。
未だ手首は掴まれたままだ。
「黄瀬」
「っ!?何…」
「あとさ…先輩たちに囲まれてバスケやってる時の顔は悪くないと思うよ」
「!!!」
一瞬緩んだ手を振り払って、日誌と荷物を持って立ち去る。
ドアの所で少し振り返れば、またもアホ面の黄瀬と目が合った。
「ぶっ、はは…その顔もなかなか」
「う、うるせえな!」
「じゃあね。日誌出しといて」


本心だ。
塗り固められた笑顔より、よっぽど人間らしい。

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