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例えばその笑顔が偽りだとして
その裏に隠された闇があるとしても


私としては特に気にしてるつもりは無いんだけど、何故か視界によく黄瀬が入るようになった。
目で追ってるわけじゃない、断じて。
席替えをした事によって更に私の視界に入り込むようになったんだ。
私は窓側の後ろから2番目。
黄瀬はその隣の列の後ろから3番目。
つまり私が黒板に目を向けるだけで黄瀬が視界に入るのだ。
噂好きの女の子たちがまた勘違いするから非常に困る。
まあ、視界に入ってしまうついでに軽く観察はしてしまうんだけど。
とにかく黄瀬は笑う。
目がなくなる程顔をくしゃっとさせて笑う。
そしてその笑顔の後に必ず一瞬の闇が現れる事を私は知ってしまった。
街で見かけたあの表情の変化は杞憂だったのだと思う様にしてたけど、この数日でやっぱりあれは1度きりの物じゃなかったんだと知ってしまった。
皆が気付かないのは黄瀬のあの笑顔に毒されてしまってるからだろうか?
それともあの一瞬を見抜ける程私の目が黄瀬の闇発見仕様になってしまったからか。
何にしても迷惑な話だ。
あの一瞬を見てしまったばかりに黄瀬に目をつけられてしまったんだから。
休み時間ぼんやりと窓の外を眺めていると突然視界に黄色が出現した。
「苗字さん!」
「…何?」
「あれ、冷たいッスね」
「これが私なんだけど」
「あはは!ね、今日暇ッスよね?」
「その半強制的な言い方止めてくれるかな」
「え?だって暇でしょ?」
「…今日は予定があります」
「えー?何の?」
「教える義理はありません」
「デートとか?」
「そんなんじゃない」
「…その即答、変に怪しいッスね」
「くだらない。もうどっか行って。女子の視線が無理」
「俺は気にならないッスけど?」
「あんたと私一緒にしないで」
「んー、冷たいッス!」
おちゃらける黄瀬にイラッとしつつまた窓の外に視線を向けると、教室の後ろのドアから黄色い声が上がった。
この前見掛けた女の子たちみたいに結構派手な集団だ。
そこに向かってさっきより数倍強力な笑顔で歩いて行く黄瀬。
「黄瀬くーん!雑誌買ったよー!」
「今回のも超かっこ良かった〜!」
「マジッスか?ありがとー」
「きゃー!ねえねえ!ここにサインしてくれる?」
「いいッスよ?」
「嬉しい!自慢しちゃおー!」
快くサインに応じてここでも笑顔を絶やさない。
あの顔、どうやって出来てるんだろ…よく伸びるのかななんて馬鹿げた事を考えながらこっそり観察だ。
「雑誌にも書いてあったけど、黄瀬くんって今ホントに彼女居ないの?」
「居ないッスよ!」
「作らないの?」
「んー。どうッスかね〜」
「私!私立候補してもいい!?」
「え!ズルイ!私も!」
「ちょっと!皆抜け駆けなし!」
「あはは!俺なんかにそんな…嬉しいッスね」
「俺なんかって!黄瀬くん人気者なんだから、狙ってる子いっぱい居るんだよ!」
「そうそう!誰が黄瀬くんの彼女になれるかって皆競ってるんだから」
「はは。あ、そろそろ次の授業始まるッスよ?」
「あ、ホントだ!またね!」
「バイバーイ…」
私はどうしてもここを見てしまう。
黄瀬が1人になった瞬間見せる、あの冷たい表情を。
ほら、今日もまた…。
なんで誰も気付かない?


気付いた所で私には関係ない。
ふぅん、ただそれだけ。

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