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穏やかな日常が消え去る。
それは酷く脆く簡単に。


「はよーッス!苗字さんっ」
その一言でバッと音でもするくらいに周りの目が突き刺さった。
嫌な予感はしてたけどやっぱこう来たか。
隣に居た悠が目を見開いてる。
それもそのはず。
私と親友の悠はこういう類の男が苦手。
この状況はなんだ、と私に目を合わせて来た。
苦笑いするしかない。
「…おはよ」
「へへ!えーっと、木田さん?もおはよッス」
「お、おはよ…」
挨拶を交わして得意のキラースマイルを振り撒き、黄瀬は自分の席に着いた。
早速いつものように派手な女の子たちに囲まれてる。
「…名前、何アレ」
「話すと長いけどまぁ聞いて」
悠に昨日の事を全部話した。

昨日黄瀬に連れられて行ったのは私みたいな女にはあまり縁のない場所ばかりだった。
だからこそ今日は異常な程の疲労感が纏わりついてるんだけど。
ビリヤード、カラオケ、お洒落なカフェ、雑貨屋。
最後に行った雑貨屋は割と私好みだったけどそれ以外はなんなんだ。
特にカラオケなんてただ黄瀬がストレス発散させるかの如くとにかく歌いまくって私は座ってただけ。
居る意味ないし帰りたかった。
カフェだって黄瀬が勝手に注文した。
よりにもよって私の嫌いなミルクティー。
女なら好きだろうと思ったんだろう。
黄瀬の周りに群がる女の子と一緒にしないで貰いたい。
全てを話し終えて溜息をつくと、悠の目は完全に据わっていた。
「まじファック…私の親友連れ回すとはいい度胸だな」
「悠怖い。昨日の黄瀬みたい」
「え?」
「…あ、なんでもない」
「?とにかくもう関わらない様に気を付けなよ。女の嫉妬は悍ましいんだから」
「分かってるよ」
危ない。
ついポロっと出てしまった。
あの話についてはアイツとの話は昨日の帰り際に遡る。
『そういえば苗字さん。いつから俺の事見てたんスか?』
『別に見たくて見てたんじゃないけど』
『いつからッスか?』
『…女の子に囲まれてるとこから』
『そこからずっと?』
『…まあ』
『ふぅん』
『…』
『そうッスか』
『…』
『…ねえ』
『!!』
『…苗字さんて口は堅い方?』
妙な違和感に気付いた。
そうか、コイツはシフトチェンジすると話し方変わるんだ。
いつの間にか笑顔は消えて鋭い目が私を捉えていた。
『俺が言いたい事、分かる?』
『だいたいは』
『さすが!やっぱ似た者同士ってヤツ?』
『同じ穴の貉と思われちゃ困るけど。別に言い触らしたりしないから安心すれば?』
『ぷ、っはは!!安心ね。まあそこは苗字さんを信じて安心させて貰おうかな』
『だったらもういいね。今日の事は無かった事にし』
『それは無理ッスね〜』
『は?』
『なんか興味あるんスよ、キミに』
『…』
『なんスか、その人を蔑んだ様な目は』
『様な、じゃなくて蔑んでる』
『あははっ!やっぱ最高!また明日ね、苗字さん!』
『は?ちょっと!まだ話終わってない!』
そして今朝に至る。
要は私に昨日のあの黄瀬の一面を黙っておけって事なんだけど、私は言い触らすつもりなんかないって分かったんだからただ放っておけばいいのに。
何故私なんかに声を掛けて来るっていうなんのメリットも無い事をするのか、意味不明だ。

そして放課後、私はまたしても意味不明な行動に巻き込まれる。
黄瀬が私の腕を掴んで走り、辿り着いたのは体育館。
どういうわけか2階の応援席に座らされた。
更にいつ抜き取ったのか、黄瀬は私の携帯を顔の横で振りながらこう言った。
「人質ッス!返して欲しかったら部活終わるまでここに居て」
引っ手繰りだ。
ちなみに携帯は人じゃない、人質ってなんだ。
ああ、面倒な事になった。


誰もが卒倒しそうな程の笑顔。
甘くもなんともない。

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