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Happy Christmas

街中に目が眩むほどのイルミネーションが光り輝いている。
すれ違う人は家族連れやカップルだらけで、両手に買い物袋を提げて一人歩いている私の存在は大分浮いていた。
母に頼まれたものをどっさり買い込んで帰ったら料理の手伝い。
家族で過ごすクリスマスだ。
毎年の事だし別に普通。
でもこういうイベント好きそうなアイツから特に連絡が来ない事が不思議だった。
アイツがどうとかじゃなくても世の中の『恋人』たちはこんな日はずっと二人で過ごしたりするんじゃないだろうか。
…いや、私は別に一緒に過ごしたいだとかはない。
プレゼントだって別にいらないし。
そんな事をぐだぐだと考えながら歩いているうちに自宅に着いていた。

「ただいまー」
「おかえり〜」
「おかえりなさいッス」
「…は?」
母の声に続いてこの家に響くはずのない声が聞こえた。
足元には無駄に大きい靴。
それには見覚えがあって…とりあえず幻聴ではなかったらしい。

「お母さん!?」
「名前、おかえり。黄瀬くん部屋に案内してあげたら?」
「いやいや、何普通に家上げてるの!」
「何って名前の彼氏でしょ?黄瀬くんが来るなら買い物はお母さんが行ってあげたのに」
「いや、約束なんかしてないしお母さん初対面でしょ!?」
「こんな素敵な彼がいるなら早く紹介しなさいよ!もう夕飯の準備はいいから二人は部屋で遊んでていいわよ?」
「遊んでてって…」
じろりと涼太に目をやると母にキラッキラの笑顔を向けていて、母も母で嬉しそうに笑っている。
完全に涼太のペースだ。
「黄瀬くんにお嫁に貰ってもらえるように頑張んのよ!名前!」
「はあ!?」
「大丈夫ッスよ、お母さん!俺手離す気ないッスから」
「!?」
「あら、良かった〜!お母さん嬉しい!」
もう駄目だこの親は。
ガックリ項垂れていると強く手を引かれた。
「っ、涼太!?」
「早く案内して」
「ちょっと!」
「部屋、早く」
引っ張られて階段を駆け上がる途中キッチンから呑気な『いってらっしゃい』が聞こえて溜め息が漏れた。

部屋の前に着くと涼太がピタリと動きを止めた。
それを不思議に思いながらドアノブに手を掛けると手首を掴まれて阻止される。
意味が分からないと顔を上げて涼太の表情を伺った私は同じ様に動きを止める事になった。
「涼、太?」
「っ!な、なんだよっ」
「いや…なんで、顔赤いの」
「っ別に!赤くないし!」
「…」
「赤くないし!」
大事な事なのか2回繰り返した。
掴まれた手が熱い。
心なしかその手が震えてる気がして自分の手を上に重ねてみれば、大袈裟に体が跳ねてこっちまで驚いた。
「何それ」
「っ、や、なんていうか」
「何」
「あれ以来…部屋入れて貰うの初めて、だから」
「え?あれ以来?…、っ、」
「…」
今度は私が戸惑う番だ。
涼太の言うあれ以来っていうのはつまり…
思い出して妙に意識し始めてしまった。
これ以上妙な空気になる前にと手を掴まれたまま勢いよくドアを開けて部屋に飛び込んだ。
「っ、名前!?」
「な、何気にしてんのか知らないけど!とりあえず入れば!?」
「っていうかもう引っ張られて入っちゃったし!」
「…」
パタンと扉が閉まって部屋には涼太と私の二人。
立ち竦んだまま目が合った。
黄色い瞳が揺れて、涼太の手が手首からするすると下って私の手を包んだ。
「手汗」
「かいてないし」
「緊張してるとか」
「してないし」
「…」
「…ごめん」
「え?」
突然謝罪を口にした事に驚いていると手を引かれてそのまま涼太に飛び込んだ。
筋肉質な体に顔をぶつけて呻き声をあげてしまったけど、そんなの気にも留めず涼太は私をぎゅうぎゅうと抱き締める。
「怖くて」
「な、何?」
「ここでの事思い出したアンタが…いつか俺の事嫌になって…離れてくんじゃ、ないかって」
「…」
「だから…ここ、ずっと来れなかった」
そう言って涼太は私を抱き締める腕に力を込めた。
うわ、巨体が小動物みたいに小刻みに震えてる。
思わず笑いそうになるのを堪えて自分の腕を涼太の背に回した。
「!」
「…バカだよね」
「っな、何がッスか!」
「そんな事で離れてくなら…今こうなってないから」
「っ」
頭上で息を飲む音が聞こえた。
顔が見えないのに情けない顔の涼太が目に浮かんで込み上げるのは腹立たしいけど愛しさ。
本当にバカ。
「…女々しい」
「は!?う、うるさいな!」
「嘘、好きだし」
「うるさ、………え」
「今日は特別、もう言わないけど!」
「待って!もう1回!1回だけ!」
「嫌だ、無理、おしまい」
「1回でいいから!」
「嫌だってば!しつこい!離せ!」
「駄目!」
「もう!…ん?」
「っえ、………ちょ!うわ!」
揉み合いになった私たちの足元にポトリと何かが落ちた気がして視線を落とす。
そこには小箱があって…それを見た瞬間涼太は勢いよく手を離すと、顔を真っ赤にして私を見てきた。
「俺、ダッサ…ほんとアンタの前じゃ、何も上手くいかねえの」
「涼太?」
「…ねえ」
「ん?」
「これ、プレゼントッス…クリスマスの」
「え!」
「むこう向いて」
「え、なんで」
「いいから」
言う通りに涼太に背を向けると少しの間を置いて首元にひやりと冷たい感触。
首に下げられたそれを指で触れて心音が速まり始めるのと同時、後ろから回された腕に捕まった。
こんなの貰った事ない私は動転した。
だってアクセサリーなんて…私の涼太へのプレゼントなんかリストバンド一つだ。
「こ、こんなの貰えない」
「は!?なんで!!」
「ちょっ、く、苦しい!」
「いらないって事ッスか!」
「ち、違うから!私こんなお洒落なプレゼント用意してないから!」
「は!?いいからアンタは大人しくこれ着けてればいいんだよ!」
「いいからって、」
「返品とかなし!もうこれアンタのものだから!分かった!?」
「っ」
これ以上は私が潰れてしまうってくらい強く抱き込まれる。
耳元で落とされた溜め息に心臓が跳ねた。
「私のプレゼント…リストバンドだよ?」
「嬉しいし」
「っ、差があり過ぎでしょ」
「いいって言ってる」
「そんな事言われたって」
可愛くない自分にだんだん落ち込んでくる。
本当は嬉しくて仕方ないのに出てくるのは突っ返し事ばかりだ。
少しでも嬉しい気持ちが伝わればと涼太の腕に手を絡ませてみる。
ふ、と笑われた気がして振り向こうとした瞬間…
「じゃあ、差額は今から貰うからいいッス」
そう言って涼太は驚く私の口を塞いだ。

「っへへ…俺の方が得したッスね」
「!?」

たまにこうやって素直な爆弾落とすからコイツは嫌だ。
心の中でそんな悪態を吐きながら、もしかしたら今までで一番幸せなクリスマスかもしれないと笑った。


Merry Christmas
20151225

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