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近付くその顔は笑顔。
知ってるよ、そんなの偽物。


瞬時にパッと表情を変えた黄瀬涼太は私の目の前までやって来た。
怖いくらいの笑顔。
「あれ、苗字さんじゃないッスか!どうしたんスか?こんな所で」
「…」
何コイツ。
私こんな風に話し掛けられた事もないし名前知ってた事にもビックリなんだけど。
警戒心たっぷりの視線を向けて黙り込めば、調子を変えずに明るく話し出した。
「誰かと待ち合わせッスか?」
「…別に、ただぶらぶらしてただけ」
「……あはは!苗字さんってそんな感じなんスね!」
「何それ」
「いや、今までちゃんと話した事無かったし気付かなかったッス」
「?気付く?何を?」
「…」
「?」
「…俺と同じ匂いがする」
「!?」
声音はそのままに一瞬さっきの冷たい表情を見せたかと思うとまたいつもの笑顔に戻った。
「苗字さん暇ッスよね!どっか行かねッスか?」
「え、ちょっと」
有無を言わせる気のない強引な誘い文句を吐き出して私の腕をがっしりと掴む。
その大きな手に私の腕なんかいとも簡単に捻り潰されそうだ。
歩き出したその歩幅は私に合わせてくれてるみたいだけど、どうやら私に拒否権はないらしい。
歩きながら片手で取り出したニット帽を深めに被り、チラリとこっちを見る黄瀬。
ああ、分かった。
私なんかと歩いてるのを誰かに見られたら困るという事か。
納得した私はマフラー深くに顔を埋めた。
それを見た黄瀬は前に向き直る。
これで正解だったらしい。
「苗字さん、何処か行きたいとこないッスか?」
「ない。だからぶらぶらしてたんだし」
「はは!そうッスよね〜!」
「黄瀬が行きたいとこ行けばいいんじゃない?」
「…へー」
「何?」
「苗字さんは俺の事黄瀬って呼ぶんスね」
「ああ、ごめん。嫌なら呼ばない」
「そうじゃないッスよ!なんか新鮮。涼太でもいいッスよ?」
「遠慮しときます、まだ死にたくない」
「あははは!面白い!いいッスね、その感じ!!」
依然私の腕を掴んだまま歩き大笑いをかます黄瀬。
コイツの笑いのツボがよく分からない。
別に知りたいとも思わないけど。
そもそも私はコイツと休日を過ごす予定なんて塵ほどもなかったんだけど、どうしてこうなったのか。
私は結局そのまま黄瀬に振り回されて休日を終えた。


笑顔の合間に見え隠れする闇。
知りたくもないしどうでもいい。

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