REAL | ナノ

23

まるで追い詰められてるみたいだ。
こんなの私じゃない。


練習試合は海常の圧勝で終わった。
勿論黄瀬は顔を一切傷付ける事なくって言うのはさて置き…しっかりとエースの役割を果たしている。
試合を見届けた私は早々に体育館を後にした。
教室に荷物を取りに行くと誰か残っているのかまだ灯りが点いている。
あ…掲示物を貼り替えていた先生が振り向いた。
「なんだ苗字、まだ居たのか」
「はい。ちょっと荷物を取りに」
「もう外真っ暗だから気を付けて帰れよ?」
「はーい」
不意にバタバタと廊下を走る音が聞こえて来た。
先生の眉間に皺が寄る。
「全く、誰だ全力で廊下走ってんのは…」
足音が止まった。
ガラガラッ!
「!」
突然後ろの扉が開いて驚いて振り向くと、そこにはユニホーム姿の黄瀬が息を切らせて立っていた。
「黄瀬か!ここは体育館じゃないぞ!」
「ええー、なんで先生居るんスか…はぁ」
「人の顔見て溜息つくとはいい度胸だな…反省文でもやるか?」
「先生ごめん!今回は許して!」
「黄瀬…今回はってお前いつもそうやって上手く切り抜けるだろ」
「ホント今日だけ!明日日直でも手伝いでもやりますから!苗字さんと2人で!」
「は!?」
何故か何もしていない私が道連れにされた。
先生!『おお、そうか』なんて納得しないで欲しい。
先生を上手く丸め込んで教室から追い出した黄瀬が扉の前でゆっくりと振り返る。
視線が絡んだ。
「…お疲れ様」
「ありがと」
「素直にお礼言われても気持ち悪いんだけど」
「あれ?俺は元々素直ッスよ?」
「…何処が?」
「分かってんでしょ」
「よく分からない」
「酷いッスね…俺、あれだけ自分を曝け出して来たのに」
「…」
「他の誰にでもない」
「…」
「アンタにだけ」
「!」
「俺の、全部」
「な、に…」
黄瀬は真っ直ぐ私を見ながら少しずつ距離を縮めて来る。
それを私はただ茫然と見ていた。
目の前に立った黄瀬はまだ試合の余韻か汗が滴り、ユニホームも濡れて体に貼り付く程。
異常なまでの色気を纏っていて思わず一歩後退する。
机にぶつかってガタンと言う音が響いた。
「苗字さん」
「な、何…」
「…名前」
「!」
「別に名前で呼んでもいいんスよね?」
「否、あれは…黄瀬がわざわざ言い直したから別にって言っただけで、」
「名前」
「!」
「名前」
「っ聞こえてるから!!」
「俺の名前は?」
「…黄瀬」
「違う」
「黄瀬涼太」
「それフルネーム…な、ま、え…」
「…」
「名前」
「………涼太」
「はいッス」
「!」
なんなの、ホントに。
ホッとした様な穏やかな笑みに目を奪われた。


たかが名前を呼んだだけだっていうのに。
そんな顔するなんてどうかしてる。

prev / next

[ back to top ]

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -