REAL | ナノ

22

久しぶりに見た大きな背中は丸まって。
やけに頼りなく見えたのは欲目だろうか。


笠松先輩が嘘をつくなんて思わないし、黄瀬が先輩に嘘をつくとも思えない。
だけど先輩からの話はやっぱり信じ難くて…
だけど私は目の前の背を丸めた大男が可愛いと思えて仕方なかった。

私の手は硬く握られた黄瀬の拳に触れていた。
「!誰ッ!」
「…」
「名前!や、あ…苗字、さん…」
弾かれた様に振り向いた黄瀬。
そりゃいきなり手に触れられたら驚くだろう。
思い切り手を振り払われそうになったけど私は離してやらないとばかりに黄瀬の手を掴んだ。
戸惑う様に揺れる瞳には私が映っている。
「別に…言い直さなくてもいいけど」
「!」
「血、出るよ?もうすぐ試合なんでしょ?」
「…うん」
うんって何だ。
小さい子供をあやしている気分になって来る。
素直に手の力を緩めた黄瀬は窺う様に私の方を見た。
情けない顔だ。
いつも女の子にキャーキャー言われてる時みたいに輝いてもいない。
こんなのこれから試合に挑む選手の顔じゃない。
「勝ちたいんでしょ?」
「!」
「負けるのは悔しいんでしょ?」
「ん」
「相手、ラフプレーする学校なんだってね」
「うん」
「…顔に生傷作ってでも、勝って来なよ」
「!!」
わざとらしくさっきの子たちと正反対の事を言った事に気付いただろうか。
目を見開いて私を凝視する黄瀬を見遣れば、その目が少しずつ闘志を増して来た様に思えた。
「苗字さん」
「何」
「…相変わらず素っ気ないッス」
「これが通常稼働ですけど」
「ふ、っはは!」
「何笑ってんの」
「初めて会話した時のまんま」
「む」
「何も変わってない」
「これが私だし」
「…今日は人質も無いのに見に来てくれたんスか?」
「帰ろうかな」
「ッうーそ嘘嘘嘘うそッス!見てって!」
「冗談。帰んないよ」
「なんなんスか、もう」
「見て行こうかな…必死で無様な黄瀬」
「!!…苗字さん」
「頑張んなよ、黄瀬」
「当ったり前!」
黄色が輝いた。
人様に振り撒く用の作られた笑顔じゃない、ホントの『黄瀬涼太』の笑顔で。


去り際に見た横顔は馬鹿みたいにイケメンで。
自信に満ちた大きな背中を見送った。

prev / next

[ back to top ]

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -