REAL | ナノ

21

信じない。
だってそんなの…


1週間程経てば首の鬱血痕は紫色が薄っすら見える程度になっていた。
近くでよく見ない限りは何だか分からないだろう。
痕が薄くなった所で私の心境に変化は見られなかった。
つまり不本意にも、私はあの黄瀬の事をまだ思っているっていう事。
黄瀬とは雑用の荷物運びの時話して以来一切話はしていない。
最近は私があまりに避けるものだからきっと面倒になったんだろう。
黄瀬は私を見る事を止めた。
ホッとした様な残念な様な…なんとも身勝手な自分を責める毎日だ。
今日は放課後、バスケ部は他校との練習試合だと聞いた。
笠松先輩がまた昼休みにわざわざやって来て教えてくれたのだ。
練習試合の事だけじゃなくて黄瀬の事も聞いた。
先輩から聞いた話を思い出すと胸の辺りがざわついた。
『ってわけだからまた応援頼むな』
『せ、先輩!』
『なんだ?都合悪いのか?』
『いや、あの…まあ…はい』
『…来づらいか?』
『え』
『やっぱお前ら喧嘩してんだろ』
『や、喧嘩は、してないです…多分』
『そうかあ?黄瀬のヤツもあんま元気ねえからそうかなと思ったんだが』
『…元気無いんですか?』
『おお、相変わらずお前の話題出て来ないしな。あんなの黄瀬じゃねえな』
『…どんだけ私の悪口言ってたのあの人』
『は?悪口?』
『?』
『悪口なんか聞いた事ねえぞ?』
『え…』
『え、って…だから、黄瀬からお前の悪口なんか一度だって聞いた事ねえって言ったんだよ』
『う、嘘…』
そこからの笠松先輩の話は酷く信じ難いものだった。
だってこんなの、信じろって言われたって無理だ。
『俺の事一番分かってくれてんの、苗字さんッス。あ、勿論笠松先輩の事も俺の事分かってくれてるって思ってますけど』
『なんていうか、自分を曝け出せるって言うんスかね』
『いつもギャーギャー煩い女の子には興味ねッスよ』
『あんなのと苗字さん一緒にしないで欲しいッス!いくら先輩でも怒るッスよ?』


『受け止めてくれるんスよ…無様な俺の事…』


いつの間にか私は放課後の体育館に足を向けていた。
大分離れた場所からでも女の子の声援が聞こえる。
きっとまた黄瀬のファンの子たちで溢れてるんだろう。
体育館に続く通路をトボトボと歩いていると、正面扉で数人の女の子に囲まれた黄色い頭を視界に捉えた。
まるで機械の様にピタッと歩みが止まる自分に苦笑いだ。
「黄瀬くん!今日も頑張ってね!」
「応援してるから!」
「ありがとう」
「相手の学校ガラ悪いみたいだけど大丈夫?」
「そうそう!黄瀬くんの顔に傷でもつけられたら大変!」
「負けてもいいから怪我とかしないでね?」
「ホントだよ!モデル出来なくなっちゃうし!」
「はは…大丈夫ッスよ」
ああ、地雷踏みまくってるじゃん。
言いたい放題言って応援席に戻って行く女の子たち。
黄瀬は拳を震わせていた。
あれじゃきっと爪が食い込んじゃってる。
試合前に何やってるんだか。
私はこっちに背を向けて立つ黄瀬との距離をゆっくりと縮めた。


何を話そうかなんて考えてない。
その背中まであと4歩。

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