REAL | ナノ

20

だって仕方ない。
どうしたらいいか自分でも分からないんだから。


相変わらず黄瀬の視線から逃げている私。
自分の気持ちをしっかりと自覚してしまった上に親友もそれを知っているという事もあって、余計に黄瀬を見る事が出来なくなった。
「おーい、苗字!」
「!は、はい!」
休み時間、突然先生に呼ばれて駆け寄れば雑用を任せられた。
小テストで名前を書き忘れた罰だそうだ。
『最近弛んでるぞ』と言われて素直に謝るしかなかった。
自分でも分かってます、先生。
さっきの授業で使った教材と提出物を抱えて、既に職員室に戻ってしまったであろう先生を追い掛けた。
重さはあるけど大した量じゃなくて良かったとホッとする。
ダラダラと教室2つ分歩いた所で、突然横から手が伸びて来て抱えていた辞書類が消えた。
「手伝うッス」
「!」
「それも、貸して」
「い、いい!大丈夫!」
更に残りの提出物も取り上げようとして来た人物に向かって思わず大きな声を上げてしまった。
黄瀬だ。
「返して…1人で行けるから」
「手伝うッス」
「…」
「…体、まだ辛いッスよね?」
「!」
「ていうか鼻の頭…どうしたんスか」
「黄瀬には関係ない」
「…はぁ。早く。休み時間なくなるッスよ」
「わ、分かってる…」
半歩先を歩く黄瀬を追い掛ける。
言葉を交わすのはあの日以来だ。
荷物を無事先生に届けて職員室を出て、来た時同様教室への道を戻る。
こんな時に限ってこの廊下を通る生徒が少ないなんて。
黄瀬ファンに見られるよりはいいかもしれないけど、この気まずい空気はなかなかに耐え難い。
そんな中黄瀬がその沈黙を破った。
「苗字さん、なんで」
「!あ、ありがと、荷物」
「…別に、あれくらいなんて事ないッスよ」
何か言い掛けた黄瀬の言葉を思わず遮った。
だけど結局意味は無かった。
「なんで、避けるんスか」
「別に避けてない」
「避けてる」
「…誰もが自分の事見てるだなんて、思わない方がいいよ」
「……可愛くないッスね」
「!」
今までだったら何とも思わない様な一言に過剰に反応する。
私は多分傷付いた。
身勝手な事だ。
自分だって黄瀬に嫌味染みた言葉を吐いた癖に、それに対する当然の返答だというのに…『どうせ可愛くなんてない』で済ませてしまえばいいのに。
何も返せなかった。
今までになく女々しい自分に嫌気が差す。
更に最悪な事にじわじわと目の奥が熱くなって来た。
こんなのどうかしてる。
私はきっと何処か狂ってしまったんだ。
「!ちょ、何泣いてんスか!」
「は!?泣いてないし!」
「どう見たって…!!」
バシ!
時間が止まった様に2人動かなくなった。
私は一瞬頬に触れた黄瀬の手を弾いた。
黄瀬の顔が歪む。
怒って歪められたのならまだいい。
なんで…
なんでそんな苦しそうな顔してんの。
こっちまで…苦しくなる。
「ご、ごめん、なさい…」
「!」
居た堪れなくなって出て来たのは謝罪。
私は弾かれた様に目を見開いた黄瀬を置いて1人駆け出した。
追い掛けて来る気配は無い。
結局次の授業は出る気になれなくてサボってしまった。
課されるであろう雑用か反省文を覚悟して。


次から次へと私を襲う初めての感覚。
こんな感情、私は知らない。

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