REAL | ナノ

14

このモヤモヤは一時のイラつき。
放って置けばきっと自然に消えるんだ。


笠松先輩から黄瀬の事を聞かれてから1週間程経った。
今日は特に予定のない休日、家でダラダラ過ごすに限る。
朝昼込の遅いランチを済ませてリビングのソファに体を沈めた。
共働きの両親が帰るのは夜で、それまで一人ぼっちのいつもの休日だ。
ボーっとしていれば笠松先輩の言葉が頭に浮かんだ。
『お前、黄瀬と仲いいじゃねえか』
自嘲気味な笑いが漏れる。
仲がいいわけないじゃないですか、先輩。
黄瀬は相変わらず私という存在を無かった物にするかの様に一切視界に入れようとはしなかった。
こっちは笠松先輩に言われたし、少し…ほんの少しだけ気に掛けてやろうと嫌々目を向けてるっていうのに。
本当に本当に失礼なヤツだ。
他の女子には気持ち悪いくらいの笑顔を振り撒いているくせに、こっちは単なるストレスの捌け口。
かと思えば必要なくなったのかお払い箱かというくらいの扱いだ。
理不尽極まりない。
最早持病にさえなりそうな程定着して来た胸のつっかえに顔を歪めた。
そんな時、ふと携帯が震えて着信を知らせた。
「…誰だろ」
ディスプレイには見知らぬ番号。
知らない番号には出ない主義だ。
暫く放置したらパタリと止んだ。
ホッとしたのも束の間、数分後また同じ番号からの着信。
2回も掛けて来るし、呼び出しが長いって事はもしかしたら知り合いかもしれない。
番号を変えた報告とか?
そう思って起き上がって通話ボタンを押した。
「はい」
『………俺ッス』
聞こえて来た声に携帯を落としそうになった。
気付かれない様に心の中で深呼吸をして冷静に応える。
「オレオレ詐欺なら他当たって下さい、じゃ」
『な!はぁ!?ちょっと待って!切らないで!!』
「…」
即通話を終了させようとした私に酷く焦った様に止めに入った電話の相手は…黄瀬だ。
深い溜息を吐いて久しぶりに聴くその声に向かい合った。
「なんで番号知ってるの」
『…拝借したッス、携帯人質にした時』
「それ拝借って言わないから」
『…相変わらずッスね』
「何が」
『俺に冷たいって事ッス』
「…嫌いだからね」
『嫌い、ッスか…』
自分で発した『嫌い』という言葉が何故か引っ掛かった。
そもそも元から興味が無かったのだから『好き』も『嫌い』もない。
『俺も、嫌いッス』
「…」
そして返って来た予想の範疇だったはずの黄瀬の言葉に、どういうわけか動揺してしまった。
おかしい。
そろそろ本気で電話を切ろうとした時…
ピンポン
玄関からの呼び出し音が響いた。
「…誰か来たからもう切るよ」
『このまま出ればいいじゃないッスか』
「電話しながらお客さんの相手出来るわけないでしょ」
『宅配とかならハンコ捺すだけッスよ』
「はぁ?宅配って決まったわけじゃ…あ」
モニターを見ればキャップを被った人が立っている。
黄瀬の予想が当たった事に若干のイラつきを覚えながら、通話を維持したまま印鑑を持って玄関に向かった。
ガチャリ
ドアを開けて顔を上げ、『ご苦労様です』と言おうとした私は動きを止めた。
『ね?このまま出ても平気だったっしょ?』
そう言ってキャップを取って玄関に一歩踏み入って来たのは、今現在の電話の相手である黄瀬だった。
黄色の髪が外からの風に靡いて、不覚にも綺麗だと思ってしまった。


以前と変わらず据わった瞳。
変わっていない事にまさかホッとしたなんて。

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