REAL | ナノ

13

本当に自分勝手。
私は飽きて捨てられたオモチャかっての。


黄瀬から『笠松先輩が好きなのか』と馬鹿げた事を言われたあの日から数日。
私は妙な違和感で気持ちが悪い毎日を過ごしていた。
授業中いつも嫌でも視界に入る斜め前の黄色い頭。
今現在も窓からの光を受けて、憎たらしい程にキラキラと輝いている。
そういえば最近あの据わった目と視線が合わない、と思った。
別に合わせる気もないし、合ったら合ったでまた色々と面倒なだけなのだけど。
睨む様な視線もパタリと無くなっていた。
あれだけ自分勝手に散々人に当たり散らしておいて…
ん?
ああ、そうか。
私は必要なくなったのか、という考えに至った。
あのどす黒い感情が突然無くなるわけはない。
新しい捌け口でも見つけたのだろうか。
「用済みって事…」
小さく零した言葉は、先生が教科書を読み進める声に掻き消された。


「苗字、お前なんか知ってるか?」
笠松先輩にそう聞かれたのは、更に数日経った週も変わったある日。
昼休みに私のクラスまで来て直々に呼び出された。
黄瀬の事で、だ。
「私は何も知りませんよ?」
「マジかよ…お前だけが頼りだったのに」
「えー、私の何処が頼りになるんですか」
「お前、黄瀬と仲いいじゃねえか」
「…先輩の目は何かご病気で?」
「失礼だなお前。…心配なんだよ、黄瀬が」
「え?」
「最近無心でバスケしてるっていうかよ、なんか妙なんだよな」
「…いいじゃないですか。荒んでバスケ止めるとかじゃないなら」
「いや、なんかよ…取っ付きにくくなったっていうか。あの敗戦は乗り越えたと思ったんだけどな」
あの敗戦とは、先日の誠凛高校との練習試合の事なんだろう。
実際乗り越えたかどうかは知らないけど、必死に『勝ちたい』と口にしていたあの黄瀬ならきっと次のステップへ進めているはずだ。
「喧嘩でもしたのか?」
「は?」
先輩の言葉に私は素っ頓狂な声を上げた。
喧嘩した?誰が?
黄瀬と私が?
向こうが一方的に突っ掛ってくるだけで、私たちは喧嘩をする程の仲じゃない。
「アイツいつもお前の話題出して来るんだけど、そういや最近聞かねえなと思ってな」
「私の話題、ですか…」
「おお。俺がうるせえってケツ蹴飛ばすまで話してんだぜ?ったく」
「そ、そうですか」
「ホントだって。まあ、なんか分かったら教えてくれ。これでも一応主将だからな…部員の事は心配だ」
「分かりました」
軽く会釈をして先輩と別れた。
私の話題、か。
黄瀬が出す私の話題なんてどうせ文句や悪口の類に決まってる。
いつもの黄瀬の態度から安易に想像出来た。
だから、あまり聞きたくは無かったので追求はしなかった。
…聞きたくなかった?
何故?
妙なモヤモヤが胸の隅で渦巻いて、気持ちが悪くなって深く息を吐いた。


斜め前の黄色い頭は振り向かない。
見慣れた据わった瞳ももう視界に映らない。

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