REAL | ナノ

11

先輩、私は保護者じゃないから。
首輪着けてしっかり繋いでおいてと言いたい。


練習試合の翌日から私に対する黄瀬の態度は形を変えた。
すれ違ったり目が合う度にジロリと睨まれる。
至近距離で目が合えばツンとそっぽを向かれる。
反抗期の子供を持つ親か私は。
なんでこうなったのかさっぱり分からないし大変迷惑な話だ。
そういえば練習試合を見ていたらしい女の子たちからは度々こんな声が漏れ聞こえた。
『負けてもカッコイイ』『バスケが駄目でもモデルがある』
こんな話を黄瀬が聞いたらきっとまた悍ましいキレ顔になる事だろう。
うわ…案の定、現在進行形でヤバイ顔してる。
教室の隅で騒ぐ女の子の声が黄瀬に丸聞こえだ。
「残念だったよね」
「うん、でもカッコイイ事に変わりないし」
「負けたとしても絵になるじゃん?」
「だよね!負けてもイケメーン」
「強い黄瀬くんしか知らなかったけど、これから負け続きとか有り得るのかな?」
「どうだろうね〜」
「いっその事バスケなんか止めちゃってさ、私たちと遊ぶ時間作って欲しいよね〜」
「うわ、それいいね」
…。
ちょっと同情するわ。
チラリともう一度黄瀬に目をやると、クラスの友達と普通に喋っていた。
けど机の下に隠した拳は強く握られ、僅かに震えているように見える。
そんな姿を一蹴して私は飲み物を買いに教室を出た。

飲み物を手に戻ろうとした所で珍しく笠松先輩に遭遇した。
私を見つけると片手を挙げて近くまでやって来た。
「よう」
「こんにちは」
「練習試合、見に来てくれてサンキューな」
「いえ。お疲れ様でした」
「黄瀬の事も。なんか、…サンキュ」
「私は何もしてません」
「泣いたあのバカを慰めてくれただろ?」
「…泣き虫の涙拭いただけです」
「ぶくく」
「な、なんですか?」
「苗字ってなんつーか、黄瀬の保護者みたいだよな」
「…」
「ぶはは!顔が凄い事になってるぞ!」
「先輩結構言いますね」
「そんな怒るなって」
言いながら私の頭をポンポンと叩く笠松先輩。
兄が居たらこんな感じだろうか。
貶されて笑われてるのに、嫌な感じはしなかった。
きっと黄瀬もこの人のこういう所に引かれているんだろう。
随分懐いているみたいだったし。
暫く頭を撫でられて抵抗もせずに居た。
すると突然その手が止まる。
「お」
「?」
笠松先輩が何かに気付いたように私の後方を見たので、私も振り向いて確認しようとしたその時…
「!」
物凄い勢いで手首を掴まれた。
冗談抜きで痛い!
「お、おい黄瀬!」
「黄瀬!?っちょ、痛」
「笠松先輩、ちょっとこの人借りて行きます」
「お、おう」
「な!何言ってんの!?」
黄瀬だった。
背を向けているので表情は窺えないけど、明らかに語気が強くイラついているのが分かる。
抵抗する間もなく手をグイグイと引かれて、私は笠松先輩からどんどん遠ざかった。
わけが分からない。
先輩もただポカンとしてこちらを見ているだけだ。
「黄瀬!離して」
「…」
「痛い」
「…」
「離してって」
「うるせえよ」
私の意見を聞き入れる気は更々無いらしい。
掴んだ手の力もそれを強調している。
私はただその馬鹿力に引っ張られて、脚を縺れさせながら着いて行く事しか出来なかった。


さっきまで反抗期かと思ったら
今度は一体何なのだ。

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