REAL | ナノ

10

割れんばかりの歓声、悲鳴。
アイドルのライブ会場みたいだ。


ムスッという表現がしっくりくる顔で、私は体育館の応援席からコートを見下ろしている。
周りの女子は目をキラキラと輝かせて最早コート内のただ1人しか見ていない。
何しに来たんだ、ここはバスケを観戦する場所だぞ。
勿論バスケの話なんかしない彼女たちの声は耳障り以外何物でも無い。
ふともう一度コートに目をやると黄色い頭が振り向いた。
「あ」
視線が絡む。
黄瀬が笑った。
ああ、そんな顔すると…
ほら、隣の女子が目が合ったって騒いで今にも倒れそうだ。
笛が鳴り響いてどうやら練習試合の開始らしい。
相手は誠凛高校って言ったか、東京の新設校だって聞いた。
笠松先輩が色々説明してくれたけど誰がどうでとかそんな話はよく分からなかった。
とりあえず背の高い赤髪が目立つ。
黄瀬は勝つから安心して見ててと言っていた。
笠松先輩に『足元掬われんぞバカ』って蹴られてたけど。
安心するも何も私は別に自発的に応援しに来たわけじゃない。
でもまあ自分の通う高校が強いって言うのは誇れるものかもしれない。
なんて思いながら、コート内を駆け回る選手たちを見つめた。


何が『安心して見てて』だ。
海常は…黄瀬は負けた。
ポツンとコートに佇みながら動かない。
ついさっきまで奇声をあげていた女の子たちはいつの間にか居なくなってた。
負けた時の扱いってこんなものなのかな。
あ、黄瀬が振り向いた…
…!?
何、泣いてんのあの人。
黄瀬は頬を伝う涙を拭おうともせず流し続けていた。
自分でも理解出来ていないのか逆に私の顔を見て首を傾げている。
「黄瀬…」
ぽつりと漏れた名前が聞こえる距離でもないのに、黄瀬の声も聞こえた気がした。
「苗字さん…」

無意識に足が動いた。
ふらふらと覚束ない足取りで歩く黄瀬。
階段を下りてすぐの通路の先、黄瀬がこっちを向いて立ち尽くしていた。
よく分からないけど私の歩みは止まらなくて、気付けば黄瀬の目の前に立っていた。
「…」
「…」
お互い何も言葉を発しない。
黄瀬は眉間に皺を寄せて困った様な顔をしてた。
初めて見る表情かもしれない。
もう一歩、近付いた。
「!」
手を伸ばして、憎たらしい程にすべすべで綺麗な頬の涙を拭った。
なんでこんな事をしてるのか自分でも分からない。
一瞬驚いて目を見開いた黄瀬だけど、そのまま大人しく涙を拭われていた。
一度ぎゅっと閉じてまた開かれた瞳からはポロポロとまた涙が伝った。
それは私の指の上をツーっと伝う。
泣き虫め。
「負けたんス、初めて」
「…そう」
「勝ちたい」
「うん」
「悔しい…っ勝ちたい」
「そっか」
「っ」
後から後から伝う涙を拭ってやった。
何故か嫌悪は無かった。


いつもそんな風に感情を曝け出せばいいのに。
こういう涙は嫌いじゃない。

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