「名前さん、ありがとうございます」
「え?私何かした?」
怒りに任せて3人を置いて来てしまった。
でも今は隣に黒子くんが居る。
いつの間に追い付いたのか、意外と素早い。
このジッと見つめる子犬のような目で『話を聞いて貰えませんか』と丁寧に言われて、断れる人が居たらお会いしたい。
突然お礼を言ってきた黒子くんをポカンと見つめる。
「青峰くんの事です」
「青峰?私別に何もしてないけど。今の所喧嘩ばっかしてるし」
「青峰くん、すごく生き生きしてます」
「生き生き?」
「はい。…奏さんから僕達のこの世界での在り方を聞きました。なので名前さんも知っていると思いますが、ここに来る前迄の青峰くんは全ての事にやる気を失くしていました。大好きなバスケにさえも」
「…うん」
「火神くんという存在に少しずつ気持ちの変化はあったようですが、中学の頃のように純粋な笑顔を見せてくれる事はありません。でも、昨日も今日も驚きました。僕たちとバスケをやっていた時の笑顔だったんです。」
「…笑顔。そうなの?」
「名前さんは分かりませんでしたか?名前さんとお話している時の青峰くんは、凄く楽しそうでした。」
「いや、あれはただ私の事からかって…」
「そうでしょうか?例えそうだったとしても、僕は嬉しかったです。青峰くんのあんな表情を見る事が出来て。だから名前さん、ありがとうございます」
「…黒子くん」
黒子くんはニコリと微笑んだ。
私は正直どう返したらいいか分からない。
別に青峰を元気付けようとか、笑顔が見たいとかそんなつもりで接してきたわけでもないし、見ての通り喧嘩ばかりしているのだから。
だいたい、向こうが私に感謝してるとも思えない。
たまたま出会ったのが私であって、あの公園を私以外の人が通っていれば出会っていなかったかもしれないのだ。
それに黒子くんは奏の家の前に居たって言うんだから、黒子くんと奏は出会うべくして出会ったようなもんだ。
考えれば考える程、なんで私たちは出会ったのかと不思議で仕方ない。
「戻りましょう、名前さん。青峰くんも待ってます」
「あはは、それはどうだか分からないけど。戻ろうか」
「はい」
「黒子くん」
「なんでしょう?」
「奏、黒子くんと出会えて凄く喜んでる。いつお別れが来るか分からないけど、奏ってしっかりしてそうに見えて脆い所もあるから…よろしくね」
「はい、勿論です。…ずっと、一緒に居られたらいいんですけど」
「…黒子くん」
「分かっています。きっと僕たちはいつか元の世界に帰るんでしょうね」
「…奏と、離れたくない?」
「…ふふ。すみません、そうみたいです。困りました」
くしゃっと顔を歪ませた黒子くんの頬は、ほんのり色付いていた。
なんて素直な子なんだろう。
奏も隅に置けないな。
でも、確かに困った。
きっと、いや間違いなく…お別れの時はやってくる。
「青峰っち。」
「あー、なんだよ」
「あはは。いいね、やっぱ喋り方そんな感じなんだ」
「…」
「ま、いいや。昨日か今日か…名前、何か様子おかしくなかった?」
「…おかしいって?」
「なーんか今日あの子おかしいんだよね」
「そんなん分かねーよ」
「まだ2日しか居ないから分かんないか。んー、急にボーっとしたり考え込んだりとか。情緒不安定かな〜って感じの時、無かった?」
「あー。言い合いしてて急に大人しくなりやがった時は、あんな」
「ふぅん。その後は?」
「部屋出て行っちまったから分かんねえけど、1人でふて寝してたぜ」
「…そう。あの子ね、ちょっとしたトラウマ抱えてんのよ」
「はぁ?アイツが?」
「あはは。見えないでしょ?普段あんなんだからね」
「…あんた、結構言うな」
「いいの、親友なんだから。で、まあそのトラウマがなんなのかって言うのは…やっぱ本人が青峰っちに打ち明けない限りは、私も何も言う事は出来ないんだけど」
「まどろっこしいな」
「まあまあ。でもそういうのもいつかは克服しなきゃならないからね。私は青峰っちがキーパーソンになるんじゃないかなーって勝手に踏んでるんだけどさ」
「はぁ?俺?何がトラウマなのかも分かんねーのにどうにかなるもんかよ」
「あっははは、そうだよね〜。とりあえずもしあの子の様子が急変したら、連絡貰える?」
「ああ、分かった」
「よし。で、原因について…絶対に追求はしないと約束して」
「お、おう」
「ん。はい、お話おしまい!あ、見て、2人共帰ってきたよ」
「あ」
「あら、なんだかニコニコしてる」
「……んだよ、俺にはあんな顔、見せねーぞ」
「あら〜、残念だね。黒子くんに先越されちゃって」
「べ、別にそんなん競ってねーし」
「あの子の笑顔は癒されるよ。一度でも体験出来るといいね〜青峰っち」
「俺には関係ねーよ」
「おい名前!おっせーんだよ!別に戻って来なくても良かったけどな!」
「はぁ!?私は奏の所に戻って来たんだからね!!」
「素直じゃないんだから」
「素直じゃないですね」
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