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第30Q

「もっとくっ付け」
「もう…これ以上無理だってば」


長い長いお風呂からやっと上がり、今はベッドに2人身を寄せている。
向かい合って抱き合い隙間すらない程にぴったりとくっ付いているというのに、大輝はもっとくっ付けという。
一体これ以上どうしろと。
こんな風に大輝が急に甘えん坊になった。
自分勝手で強引で粗暴なあの青峰大輝が…。
至近距離で私を見つめながら、明日からの事を心配してくれているらしい。
「明日マジで仕事行くのかよ」
「当たり前でしょ、沢山休んじゃったんだから」
「アイツ居るじゃねーかよ」
「…しょうがないよ、上司なんだし」
「またしつこく付き纏われるぞ」
「そ、それは嫌だけど…一応助けて貰った恩はあるから無下には出来ないし…」
「触らせんなよ」
「え」
「お前は全部、俺のなんだからな」
「ちょ、何!」
「他のヤツに触られてたまるかよ」
「大輝くん、どうしちゃった」
「あ?どうもしてねーよ」
「…何その凄い独占欲」
「うるせー、ほれ…っん」
「んん」
唇を食べられてるみたいなキスをされた。
酷く優しく触れてくるので無駄にドキドキする。
暫く触れ合った後そっと唇を離すと、首元に顔を埋めて擦り寄ってきた。
猫みたいだ。
普段はいがみ合ってばかり、意地を張ってばかりな2人。
何も言わずに抱き合っているこの時間も悪くないと思う。
2人の体温が合わさってだんだんと温かくなる。
それと共に程よい眠気がやって来た。
「名前」
「ん?」
「…お前も、連れて、戻りてーな…」
「!?」
「…」
「…大輝?」
「…すぅ」
「ね、寝たの!?」
突然凄い爆弾投下して寝落ちたんですけどこの人!!
『連れて戻りてーな』って。
私を?大輝の世界に、って事?
そんな事、考えてたんだ。
びっくりしたけど凄い嬉しい。
大輝を覗き込めば、既に口半開きで寝息を立てている。
その規則的な呼吸に安心して私もだんだんと眠くなってきた。
ゆっくりと目を閉じれば誘われるように夢の中に…
「おやすみ…大輝」


そしてやっぱり夢を見る私。
この夢はなんなんだろう。
大輝とテツくんが居ないのって、何か関係が?
でも黄瀬くんも居ないって言ってるから関係は無いのかな?
何度も見るこの夢は繋がっているような気がしてならない。
ほら、今回だって…
『涼太は見つからないのか?』
『んー、見当たんないねー』
『きっとその辺で女子に絡まれてサインでもしているのだよ!全くチャラチャラした男なのだよ!』
『みどちん何怒ってんのー』
『俺は待たされるのは嫌いなのだよ!』
『大輝もテツヤも、携帯が繋がらないな。涼太は繋がるけど出ない』
『うわあ、黄瀬ちん後でたーいへーん』
『写真にはもう変化は見られないな』
『全く、なんなのだよ!そんな写真処分した方がいいぞ、赤司』
『いや、一応俺が預かっておくよ。大輝はどうでもいいとして、女子の写真を勝手に捨てるのは気が引ける』
『そだねー。その子ちょっとかわいいしー』
『…勝手にすればいいのだよ。俺は知らん』
『皆、無事帰って来れればいいが…』
『赤司?どういう意味なのだよ』
『さあ、俺にもまだよく分からないな』
『赤ちんにも分からない事なんてあるんだー』


「う…ん」
く、苦しい。
前にもこんな事があったような無かったような。
目を覚ますと目の前には私にしがみ付いて眠る大輝のドアップ。
「子供みたい」
無防備に眠るその顔は異様に幼く見えてかわいい。
ツンツンと頬を突くと眉間に皺が寄った。
「ぷ、変な顔」
「ん…ん?名前?」
「あ、おはよ」
「…はよ。はえーな」
「今日から仕事だし」
「…おお、そうだった」
「うあー、体痛い」
「ああ?ハッ、俺が散々鳴かしてやったからな」
「え、何その得意気な顔!一晩中しがみ付かれてたからなんですけど」
「なんだよ、照れんなって」
「照れてないわ!」
「名前…」
「ん?っん」
「んん」
「ちょ、もう準備するんだから!」
「目覚めのちゅーぐらいいいじゃねーか」
「それで止まらなそうだから言ってるの!」
「お、分かってんな」
「ぎゃ!今日はホントに止めて!」
「…ケチ」
「…煩い」
ピンポーン
「…誰だよこんな朝から」
「ってか7時半!…私8時には出たいからお客さん構ってる暇ないんだけどな」
「とりあえず誰だか見てくっか」
「え、大輝出てくれるの?」
「おー、お前準備すんだろ?」
「うん、助かる!よろしく!」
珍しく協力的な大輝の言葉に甘えて玄関に向かって貰い、私は準備を始めた。
テツくんとかかな?
手早く化粧を済ませて服に着替えて部屋を出る。
そして向かった先、リビングで目の当たりにした光景に目を見開く。
「な、夏村さん!?」
「あ、名前ちゃんおはよう」
「おはようございます、え…あの」
「大輝くんに通して貰ったんだ」
「だ、大輝に?」
「…なんだよ」
「しっかりお礼言ってくれたよ」
「よっ余計な事言ってんじゃねえ!!」
「お礼!?」
「姉、とは言わなかったけどね」
「え…あ、それは」
「もういいよ、隠さなくても。始めから分かってたし」
「はぁ?」
「キミたちの関係」
「は、始めからって」
「今日だって、そんな印見せ付けられたら何も言えないよね」
「!?!?」
「分かってんならもうちょっかい掛けんじゃねーよ」
「ちょ、ちょっと大輝」
「それとこれとは話が別かな」
「てめえ」
「あはは。大輝くんはホントに名前ちゃんが好きなんだね」
「からかってんのか」
「いや、羨ましいなと思っただけだよ。真っ直ぐで」
「あ、あの…夏村さん、今日はどのような?」
「ああ、ごめんごめん。迎えに来たんだ」
「え?」
「一応ちょっとでも頭を突っ込んだ身としては、ちゃんと仕事復帰しる所を見届けたくてね」
「あ…す、すいません。ありがとうございます」
「俺が行くからいいっつーの」
「大輝は、朝はお留守番ね」
「ちっ」
「さ、そろそろ行こうか」
「はい」
立ち上がった夏村さんに続いて玄関に向かう。
大輝は物凄く不機嫌な顔。
でも大輝にしては頑張ったよね。
夏村さんにお礼言ってくれるとは思わなかった。
振り向いてもう一度表情を確認すれば、やっぱりちょっとむくれている。
「大輝、ごめん。朝ご飯適当によろしく」
「おー」
「いってきます」
「…」
「?」
「名前」
「っん!?」
ちゅっ
一瞬の出来事。
気付いた頃には大輝の顔は既に離れた後だった。
「…いってきますのちゅーぐらいしてけよ、バァカ」
「ばっ!」
「うわ、せめて僕が居ない時にして欲しかったな」
「夏村さん!?」
み、見られた。
今から一緒に出社するとか恥ずかし過ぎる!!
暫く真っ赤な顔のまま職場への道を行く事になった。


「僕にも、キミと大輝くんみたいな関係になれるような女の子…見つかるかな」
「夏村さん…」

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