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第27Q

「名前さん、おはようございます」
「ああ?何邪魔しに来てんだよテツ」


遅めの朝食を食べ終わった10時頃、テツくんがやって来た。
お客様に失礼な事言った大輝のお尻に蹴りかましといたので今脇で悶絶している。
しばらく放置だ。
「あの…朝奏さんからコレを預かって来ました」
「わ!ありがとう!ごめんね、重かったでしょ?」
「いえ。何処にしまいますか?お手伝いします」
「もーテツくんホント気が利くよね!じゃお願いします」
テツくんが持ってきてくれたのは奏のお兄さんの古着だ。
大輝サイズの私服やジャージなどが沢山。ありがたい。
ここだけの話、テツくんはゆったりした物なら奏の服で間に合ってしまうので必要無かったらしい。ココだけの話。ちょっと可愛いけど、テツくん的にはきっと…
「名前さん、目が僕の事哀れんでます」
「えっ!そそそそんな事ないよ!?」
「いいんです。僕は背も小さいですし、奏さんにも相手にして貰えませんから」
「ええっ!テツくん!どうしたの!なんか負のオーラが」
「奏さんはやっぱり、オトナな男性の方がいいんでしょうか」
「テツくん…好きなんだ、奏の事」
「…僕は、きっとペットみたいなものでしょうから」
「え!?それは無いよ!テツくんと話してる時の奏、凄く嬉しそうにしてるよ」
「そうでしょうか」
「…何かあったの?」
「あ…いえ、その…」
「ってーなコラ名前!ケツ蹴んのまじ止めろよ」
「あ、戻って来た…」
「2人で何やってんだよ、俺も混ぜろ」
「ちょ、重たっ」
大輝が後ろから圧し掛かってきた。
そのままぎゅっと私を抱き締めて耳に唇を寄せて来る。
目の前のテツくんの顔が真っ赤だ。
「テツ、奏さんにまだ言ってねーのかよ」
「ちょっと!大輝デリカシー無さ過ぎ!」
「ああ?デリバリーだぁ?」
「…はぁ、馬鹿。」
片付けは一先ず置いておいて、テツくんの話を聞く事にした。
背中に凭れている、全く離れる気の無いアホを引き摺って3人でリビングに向かった。
テツくんから奏の事で相談を受けるのは初めて。
随分と思い悩んだ顔してる。
奏がテツくんの事を好きなのは間違いないはずなんだけど、どうもテツくんが何か勘違いしているようだ。
奏の冗談混じりっぽい一言から、2人は昨日から一緒に寝る事にしたらしい。
勿論奏は嬉しくてルンルンだったと思うんだけど、テツくんにとってはドキドキでそれどころじゃなかったみたい。
なので割と平然としている奏を見て、自分には男らしさも無いし、ドキドキさせる魅力も無いんだと思い込んでしまったというわけだ。
「テツくん、大丈夫だよ。奏はテツくんの事特別な男の子だって思ってるから」
「いえ、僕なんか…」
「テツくんが思い切って気持ち伝えてみたら…きっと奏、面白いくらいにいい反応してくれると思うんだけどな」
「だと嬉しいんですけど」
「他にも何かあるの?」
「僕が臆病なだけなんですが…」
「ん?」
「…いつか、いつか僕が…この世界に突然現れた時のように、突然消えてしまったら…」
「!?」
「そうしたら…お互いに、しなくてもいい辛い思いを余計にしてしまうかもしれないと…そう、思ってしまって」
「…テツくん」
テツくんの思いを聞いて、考えないようにと封じ込めていた不安が膨れ上がって来る。
何も言ってあげられなくなってしまった。
彼の気持ちが嫌と言うほど分かってしまった。
ずっと一緒に居られるなんて都合のいい物語があるわけない。
私と大輝だって、いつか離れ離れに…
俯きそうになったその時、
「辛気くせえなぁ、お前ら」
「青峰くん」
「そんなの関係ねーだろ」
「「え?」」
「いちいちグダグダ考えてねーでよ、言っちまえばいいんだよ」
「でも、それは…」
「俺はこれっぽっちも後悔なんかしてねーぞ」
「大輝…」
「いつだか分からねー先の事でウジウジしてたらよ、時間が勿体ねーと思わねぇ?好きなら好きで自分のしたいようにがつがつ行けばいーんだよ、バァカ」
「「…」」
「…ふふ」
「ふふ、あははっ」
「んだよ、人がせっかく意見してやんてんのによ」
「大輝らしいね」
「はい。青峰くん、ありがとうございます」
「は?別に礼言われるような事してねーけど」
「勇気が出ました」
「テツくん!」
「僕は奏さんが好きです」
「おー、知ってる」
「気持ち、しっかり伝えます」
「へっ、いい目してんじゃねーか、テツ」
目に輝きを取り戻したテツくん。
私も大輝の言葉に救われた。
そんな風に思ってたなんて…
不安ばかりを考えてた自分が恥ずかしく、そしてその考えていた時間が勿体無いと思った。
確かにそうだ。
どんな事がいつどうやって身に降りかかるのかなんて分からない。
『今』を楽しく、幸せに生きたい。

まったく、アホのくせにたまにはいい事言うんだから。
隣の大輝に視線を送ると、ニッと笑って頭をクシャクシャとやられた。

ああ、この笑顔…幸せだ。
この笑顔をいつも隣で見ていたい。


話を終えてから、テツくんは律儀にしっかり片付けを手伝ってくれた。
本当にいい子。
その後2人はストバスに行った。
勿論私は大人しくお留守番だ。
体調が完全復活したらまた見に行く予定。
玄関で見送った後ろ姿が生き生きしていて、あんな楽しそうな大輝を見るのはやっぱり幸せだなと改めて思った。

暗くなった頃大輝が帰って来た。
汗だくで気持ちわりぃとか言ってるけど、表情だけはとても楽しかった事を物語ってる。
こういう顔、好きだな。
あっさりと出て来た『好き』という言葉に自分で赤面していると頬を抓られた。
「何ニヤけてんだよバァカ。シャワー行ってくる」
そう言ってコンビニの袋を私に押し付けてお風呂場に向かった。
袋の中身は私が好きなデザート。
プリンの上に生クリームがたっぷり乗ってるやつだ。私、教えた事あったっけ?
偶然だったら凄い。

夕飯を済ませ、おいしいデザートも平らげた所で現在、私と大輝はソファで寛ぎ中だ。
そういえばあのプリン、私が大好きだって事を奏がこっそり教えていたらしい。ご機嫌取りの手段に使おうとしてたのかな、なんて思ってちょっと笑ってしまった。
なんだかんだ病み上がりな私は、大輝の隣でちょっとだけウトウトしている。
「名前」
「ん?」
「おめーもテツみたいに毎日不安がってたのか?」
「…考えちゃう時も、あるかな」
「ったく。たまにボーっとしてんのはそれか」
「あれ、気付いてたの」
「どうせ風呂でもそんな事考えてたんだろ」
「アホのくせになかなか鋭いね」
「ああ?…ったく、俺だって考えねーわけじゃねえけどよ」
「うん」
「もしお前に触れる時間が限られてるならよ…1秒だって勿体ねーだろ」
「…大輝」
素直に嬉しかった。
大きな手が頬に触れる。
少し視線を上げれば藍色の鋭い瞳とぶつかる。
大輝の顔がゆっくりと近付くのに合わせてそっと目を瞑れば、唇に触れる寸前でふっと笑う声が聞こえた。
そのままそっと唇が触れ合う。
あまりに優しいキスに、無駄にドキドキと心臓がうるさい。
大輝の胸に手を当てれば、彼の心臓も私と同じように忙しなく動いていた。


「名前(離れたくねーな)」
「大輝(ずっと一緒に居られたらいいのに)」

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