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第20Q

「はっ!急用って…これの事かよ」
「だ、大輝…」


思いの外鋭い眼で見られて思わず一歩引いてしまった。
今日楽しそうにバスケをしていた表情が甦って来て、余計に悲しくなった。
こんな怖い顔をさせているのは私だ。
せっかくあんな純粋な笑顔でバスケをやっている所が見られたのに…
「ほ、ほら!大輝バスケもやり始めたし疲れるでしょ?やっぱりシングルじゃ狭苦しいかなとか思って」
「…別に俺そんな事一言も言ってねーけど」
「だ、だけどさ。広い方がいいでしょ?」
「…」
「(何?す、凄く怒ってる…)」
「へぇ」
「?」
「あー、あれか。お前、俺に襲われるかもーとか思っちゃったわけ?」
「…え。は?」
「っだーから、ちょっと押し倒されたからってよ、俺が勃ったとか言ったからってよ…お前に本気で発情したとか思っちゃったわけ?」
「ちょっと…何、言ってんの」
「抱き枕なんかに発情すっかよ」
「なっ」
「だいたい俺マイちゃんみたいな巨乳好きだし?」
「…」
「巨乳は男のロマンだろ?…貧乳ちゃんには興味ねーんだわ」
「!!!」
「だから別にこんな事しなくてもよ、間違ってもお前なん、か、…って、お前、何…泣いて…」
「!?」
泣いてる?私が?
茫然としながらも頬に手をやると濡れた感触。
だんだんと荒くなる呼吸。
そして心臓が捩れるような息苦しさ。
ま、まずい。
フラッシュバック。
暫く忘れ去っていた自分のコンプレックス。
巨乳さんと並んだら確かに明らかだけどもう人並みには成長したつもりだし、最近は悩んだり考えたりする事もなかった。
こんな事でって誰もが馬鹿にするかもしれない。
だけどあの頃の私にとっては…
「っは…」
「お、おい!名前…!?」
バシッ!!
私の異変に気付いたのか、私を支えようと伸びてきた大輝の手を勢い良く払ってしまった。
大輝の瞳が大きく見開かれる。
その表情も払われた手もそのままに、私を見てる。
や、やば…呼吸が乱れてきた。
立っているのが辛くなって来て膝を着いてしまう。
「ぅくっ」
「名前!!」
「こ、来ないで!!平気!っ平気だから…ほんと…」
「平気ってお前…!お、おい…これまさか、奏さんが言ってた…」
「!?かっ、関係ない!黙って、なさいよ!すぐ戻るから、ほっといて…」
「お、俺…何言った!?お前に…おい、マジで顔色やべーぞ!」
「っく、来るなっ!!」
「!?」
「っあ…」
思わず出たのは拒絶の言葉。
更に目を見開いた大輝。
ここに居たら駄目だ。
そう思った私はよろよろと立ち上がり、茫然とする大輝を残して何も持たずに家を飛び出していた。
「はっ、はっ、…」
社会人になってからこんなに必死に走った事があっただろうか。
それくらい無我夢中に走っていた。
何処に向かってるかなんて分からない。
もう大分家からは離れた。
とにかく、とにかく離れたかったのだ。
やっと封印出来たと思ってた無様な姿を見られた。
あんなに取り乱した理由が、昔の男に植え付けられたコンプレックスだなんて。
何も知らない大輝は悪くないのに、思い切り拒絶してしまった。
そうだ…大輝は悪くない。
「う…はぁ、はぁ」
そろそろ限界だったらしい。
ふらふらしながら徐々に歩みが遅くなる。
目の前もチカチカと点滅し始めた。
本気でやばいかも。
霞み出す視界に焦っていると、前方遠くから誰かが走ってくるのが見える。
あれは…
「やっぱり!!名前ちゃん!!」
「夏村、さん…」
やば。こんな時に…
なんで居るの…
あれ、でも、
「どうしたの!こんな時間にこんな格好で!!」
「あ、あの…」
いつもの余裕綽々な感じの表情でなく、必死な顔で私を見て支えてくれてる。
怒っているようにも見える。
「夏村さん、なん、で…」
「この辺に友達の家があるんだ。その帰り、ってそんな事どうでもいい!どうしたの!顔真っ青じゃないか!」
「あ、はは、ちょっと具合…悪くて」
「笑い事じゃないだろ!だったら弟くんに!電話番号は!?」
「!?や、あの…喧嘩、しちゃって…お願いです、電話はしないで…」
限界だった。
ゆっくりと目の前が白くぼやけていき、それと共に傾いていく体。
これじゃ夏村さんに凄い迷惑掛けちゃう。
そう思うのに体も意識も言う事を聞いてくれなかった。
「名前ちゃん!?」
夏村さんに支えられた所で、私の意識は暗転した。


「っしもし!奏さん!!」
『え、ちょ、青峰っち!?こんな時間にどした!』

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