unstoppable | ナノ

第1Q

人間の煩悩とは、欲望とは時に
 キセキとも呼べる事象を起こさせる
強く念じ共鳴する時
 それは世界を、次元さえも超えて
それがどんな願いであり
 どんな結果であろうとも


「私、変態とか無理なんだよね〜。
青峰とか」
『俺、貧乳とかまじ無理だわ。
んで、女らしくねえとな』

「なんで分かってくんないの!
真ちゃんの可愛さを!!」
『なんで分っかんねえかな、
巨乳の素晴らしさをよ』

「あーあ、
どっかに真ちゃん転がってないかな」
『あーあ、
どっかにマイちゃん転がってねえかな』


「転がってるわけないでしょ。…はぁ、あんたホントに緑間好きだよね」
「ええ、大好きですけど何か問題でも?」
「好き好き言っても所詮2次元。紙の上の人とどうにかなれるわけないんだから。そろそろ真面目に3次元で男捜せば?」
「え?何!神の上の人!おうおう!奏もやっと真ちゃんの事分かって来たじゃないの」
「…駄目だわ、この子」
残暑厳しい9月。
別に暑さにやられておかしくなったわけではない。
これが私の通常稼動。
私苗字名前。
社会人2年目、彼氏居ない歴5年(どうでもいい)、真ちゃんといつか結婚する予定の純粋な恋する乙女!
って、んなわけあるか!!
分かってますよちゃんと!
嗚呼悲しきかな3次元!
高1の夏に酷い振られ方をして灰になって早5年。
あの忌まわしき過去を抹消すべく3次元男子をシャットアウト!
完全に2次元に飛び込んで(逃げ込んで?おだまりっ!)、○ニプリやブ○ーチや○魂に続いて黒子のバスケに辿り着き…
現在、日々真ちゃんに愛を注いでいるのである。
イタイ?
あっはっは!
そんなの自分が一番よく分かってるっての!
で、隣で呆れ顔で話に付き合ってくれてるのが
私の小学生からの親友、遠山奏。
いつも私の話を聞いて冷静な突っ込みやアドバイスをくれる頼れる姉貴だ。
年は同じだけどね。
ところでなんで灰になったかって?
それは…
「まだ気にしてんの?貧乳無理事件」
「ッだあああぁぁあああッ!!!」
「あ、ごめん。掘り起こした」
「何故分かった!!私の考えてる事が!!」
「いや、そりゃあんた…眉間に皺寄せながら乳触ってるの見たらさ…」
「…」
「あ、灰になった」
そう。
私は自他共に認める貧乳である。
あっはは、自分で言ってて切ない。
今はまあ人並みには…いや、中の下…下の中…う。
そ、それなりにはある!と思う!
けど高1の頃はそれはそれは侘しい物だったのだ。
大好きだった人から思いもよらぬ告白を受け
付き合い始めて半年が経った頃、事件は起きた。
『名前、ごめん。お前の事はすっげえ好きだけど
俺やっぱ貧乳無理だわ。別れよ…』
は?
好きだけど?無理だぁ?
ばっかじゃないの!
あんたなんか、あんたなんか!
『巨乳に挟まれて窒息してしまえーーーッ!!!』
ばっちぃーーーん!!!!!
「いやー、あの時のあんたの勇姿、私は一生忘れないわ」
「今すぐにでも忘れていただきたいんですけどね!」
「ま、男に未練は無いんでしょ?」
「当ったり前!あんなのこっちから願い下げだね!いいの、私には真ちゃんが居るんだから!」
「またそれかい。まぁでも、この緑間はかっこいいよね」
「でっしょでしょ?これなんか特に」
「黒子っちの方がかわいいけど」
「奏は黒子好きだもんね〜。確かにかわいい」


金曜日の夜。
私たちはたいてい2人で食事をして、仕事の愚痴を零したり、思い出話をしたり、黒子のバスケについて語ったりしている。
そして例に漏れず今日も、話に夢中になって気付けば日付が変わろうとしていた。
会計を済ませ、来週もまた頑張ろうと励まし合って別れる。
今日はなんだかいつもより盛り上がって、あまり得意でないお酒も進んでしまった。
ただでさえ弱いというのに…
ほわほわしながら覚束無い足取りで家路に着く。
いつもショートカットに通る公園をいつも通り使い…
がつっ!!
ドサッ!!
「いったぁ!な、なに!?」
薄暗い街灯の下何も気にせずふらふらと歩いていたら、何かを踏ん付けてしまったらしい。躓いて踏ん付けて自分までコケた…最悪だ。
イライラしながら振り返って確認しようとした。
のだが…
「もう!誰こんなとこに荷物置いた…の…、!?」
…物じゃ…無かった。
そこには蹲って倒れている、人。
一気に酔いが醒めた。
「ひっ!ひひひ人!い、生きてる、よね!?ねぇっ!?」
暗がりでよく見えないが、確かにそこに人が倒れている。
全身黒っぽい服に少し大きめのバッグを抱えて。
最悪の事態を考えた私は、すぐに近寄って声を掛けた。
「すいません!大丈夫ですか!?」
返事は無い。背筋が凍った。
もうこうなったら!
「大丈夫ですか!起きられますか!?」
体を揺すったり叩いたりして呼び掛けた。
お願い!目を開けて!怖すぎる!!
必死になって強く肩を掴んで引くと、横向きだったその人がゴロリと仰向けになった。
暗くて顔はよく分からないけど、男性。
「う…」
「!?」
「い、ってぇ」
頭の後ろを掻きながら、男性はゆっくりと起き上がった。
「わ!お、起きられますか!?」
「…ああ?」
「!…だ、大丈夫そうですね」
怖い!た、助けようと思ったのに「ああ?」って!
こっちは怖い思いしたっての!!
とりあえず、お亡くなりになってるとかじゃなくてホント良かった!
確認出来たし、具合悪いわけでもなさそうだし…
「じゃ、そんなとこで寝ないようにお気を付けて」
転んで汚れてしまった膝やお尻を払って立ち上がり、今度こそ家に帰ろうと足を踏み出すと
「待て。ここ…どこだ?」
「はい?」
反応してしまった。帰りそびれた。
まさかの記憶喪失!?
め、めんどくさ!
うわ、どうしよ…めっちゃこっち見てる。
「おい、お前。ここ何処だか教えろよ」
「ここは…○△公園、ですけど」
「はぁ?場所は!」
「東京です」
「んなこたわーってるっつの!」
「(ムカ)東京の○△区ですよ!」
「はぁ?○△だぁ?何処だよそれ」
いちいちイラッとするな。
こっちは親切に質問に答えてやってるってのに。
ていうかこの声、どっかで聴いた事が…うーん。
口悪いくせにやけにいい声してるな、この人。
ザッ
「!?」
イライラした様子の彼は、いきなり立ち上がって辺りを見渡した。
って、ちょっと…この人…でかっ!!
180、いや190?とにかくデカイ!
スポーツバッグ?みたいの持ってるし、何かやってるのかな。
すごい威圧感。
や、そんな事どうでもいいや。
面倒事に巻き込まれる前にさっさと…
「おい、待て」
捕まった。
待て待て、何処掴んでんの。
猫じゃないんだから後ろ首掴むとか!
服で喉圧迫されてく、苦し…
え、何?私にどうしろと?
恐る恐る見上げると、どうやら屈んでこちらを伺ってたようだ。
思いの外近くに顔があった。
そして私の目はその顔に釘付けになった。
浅黒い肌に眉間の皺、鋭い目付きに濃紺の短めの髪。
その容姿は…
「あ、お、みね…」
そ、そんなわけ…
「ああ?俺の事知ってんのかよ」
「!?」
え!記憶喪失じゃないの!?
今この人自分の事を青峰だ、みたいな言い方…
いや、そんな事あるわけない!
ででででも、この声は!
「あ、あなた…お名前は…」
「ああ?お前今知ってただろ。青峰だよ、青峰大輝」
ちょ、何コレ。
名前までまんま!
これ、そっくりさん?なりきっちゃってるの?
イタイ人なの?
「へ、へへへえええ。それで、ここでいったい何を?」
「こっちが聞きてえよ。部活サボって昼寝して、起きたらこうなってたんだからよ」
「ちなみにその部活とは」
「ああ?バスケだよバスケ!桐皇って知ってんだろ?」
「と、桐皇…」
「おう。知ってそうな面だな。ちょうどいい、桐皇の辺りまで連れてけよ」
「え、いや、私知らな…」
「つべこべ言ってねーで早く連れてけ!腹は減ってるし、またさつきにギャーギャー言われるだろうが」
泣きたくなって来た。
桐皇なんてこの東京にあるわけないじゃんか。
さつきちゃんってあの『さつきちゃん』でしょ?
昼寝して起きたらここに居たって、もう典型的なアレじゃないか。
本格的に、コレはもしかしてもしかしなくても…。
2次元からこんにちは?みたいな?
(てか、なんで真ちゃんじゃないのぉおおおッ!!!)

「ちょっと!言っとくけどここに桐皇学園なんて無いからね。でもって、私あんたより年上だから!そうじゃなくても初対面にその態度は有り得ないね!悪いけど私には案内する事出来ないから他当たって!んじゃっ!」
冷たいと思われたって結構!
いくら困ってるって分かっててもこんな態度とられたらイラッとするよね!?
私間違ってないよね!?ね!?
でもこれがもし真ちゃんだったら助け…ゲフンゲフン。
青峰なら雑草みたいにしぶとく生き残れるでしょ。
そうだ、確か紙の上でもこんな偉そうな口調だった。
何がどうなってこうなったのか分かんないし、かなり非現実的だけど…
青峰が向こうの世界からやって来た、って事だよね?
認めるしかないよね?
(だから、なんで真ちゃんじゃないのぉおおおッ!!!)

ガシッ
いきなり二の腕を掴まれた。
しかもかなり強い力で!痛い!!
「ちょ!」
「逃げようとしてんじゃねーぞ」
「いやいやいや、私逃げてないし(逃げてるけど)!家に帰るだけだし!だからあんたも自分の居るべき世界に…」
「…俺も連れてけよ」
「そうそう、連れてけ…って、えええ!!」
「いちいちうるせえな。俺をお前んちに連れてけって言ってんの!で、なんか食わせろ」
「意味不明だね。命令されてハイどうぞって家に上げると思ったか、ええ!?」
「…お前、まじ女かよ。始めと随分違うなおい」
「なんとでも言えば?とにかくね、そんな上から偉そうに言われたって私は…」
「あ、そ。まあこんな状況じゃ、ったりめーか。俺だって意味不明だっつの」
パタリと力無く、私を掴んでいた手が離れていった。
何…急に大人しくなんないでよ。
あれ…なんか、ちょっと…何この罪悪感。
私、いくらなんでも冷た過ぎた?
考えてみたら、寝て起きたら違う場所に居たとか、しかもそこは自分の知らない世界だったとか、不安でしかないよね。
もし自分が逆の立場だったら…
ていうかホント非現実的だし有り得ない事だけど、この状況は認めざるを得ないというか。
「…私も意味分かんないけど、あんたは別の世界から来てるって事は確か」
「別の世界?」
「そう。ここには、桐皇学園なんて学校は無いんだよ」
「はぁ?いい加減な事…」
「信じられないかもしれないけどそうなの。私だって驚いてるんだから!いきなり紙の上の人が出てくるなんて…」
「紙の上だぁ?」
「そう。これもまあ信じられないと思うけど言っとく。あんたは私の世界では漫画の登場人物なんだよ。黒子っちも、黄瀬くんも、真ちゃんも、他の人もみーんな」
「………まじかよ」
突然色々言い過ぎたかな。
頭追いついてないのか、ポカーンてしてる。
でもいずれは説明しなきゃいけない事。
ちょっと心苦しい。
はぁ。もう、ここまで来たら…
「青峰!」
「ん?」
「い、行くとこないなら、勝手に着いてくれば!?」
…ちーん。
なんて可愛げのない言葉だろうか。
自分にげんなりする。
「!?…いいのかよ!」
!?な、なんなの!
なんで急に懐いてんの!
目キラキラさせちゃってんの!
それは黄瀬くんの仕事じゃ…ってそうじゃなくて。
ちょっと沈んじゃってる青峰とか…
「…そんな青峰、らしくないんだよ」
「!」
「な、何その呆けた顔!」
「いや。ま、そうだよな」
「は?何納得してんの」
「しょうがねえから着いてってやるよ!責任持って俺に尽くせよな」
「っはあぁぁッ!?」
「おい、どっちだ?さっさと行くぞ」
「ちょ、ちょっと」
どっちに行くかも分かってないくせに人の手を掴んでぐいぐい引っ張る青峰。
手首がもげそうなんですけど!
「早くしろ。腹減ってんだ」
「そっち逆方向だからね!」
「そういやお前、名前は?」
「…苗字名前」
「ふーん、名前な」
「は?呼び捨て!?」
「いーだろ別に、めんどくせえ」
「かっ、かわいくないっ」
ここできっと真ちゃんなら、真ちゃんなら!!
『苗字。よ、よろしくなのだよ』とか眼鏡のブリッジをカチャってやりながら言うんでしょー!?デレるんでしょー!?
くっそう!何故青峰来た!誰が呼んだ!
「名前」
「え、あ、はい」
ちょ、ちょっと!
今なんでいい声で呼んだ!?
ドキッとしちゃったじゃないか!
無駄にいい声なんだから止めてよね!!
「とりあえず、よろしく頼むわ」
!?
デレるのーーーーーッ!?


私は真ちゃんが大好きだ。
だが何故か今目の前には私の手をぐいぐいと引っ張る青峰。
私は真ちゃんが大好きだ。
だが何故かこの横暴なガン黒ヤロウが憎めなかったりする。
私は真ちゃんが大好きだ。

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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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