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第18Q

「青峰くん、お邪魔しました。明日名前さんにもよろしく伝えてください」
「おー、じゃあな。奏さんの事落とすなよ」


「ん…」
突然の浮遊感にぼんやりと意識が浮上する。
ゆらゆらゆらゆら
どうやら私は運ばれているらしい。
力を振り絞って重い瞼を少しだけ持ち上げれば、
「大…輝」
「ん?おー、まだ朝じゃねーぞ。寝てろ」
大輝が私を見下ろしてニッと笑った。
その笑顔に何故か酷く安心した私は、また暗闇に意識を放った。


「…重い」
カーテンから差し込む光に自然と目が覚めた私の第一声はこれだ。
何故かって、後ろから私にのし掛かる様にしがみついている青頭のせいに決まってる。
腕をお腹の前でしっかりと組み、私の足に自分の足を絡めている。
所謂、がっちりホールドされている状態。微動だに出来ない。
おまけに大輝の顔が私のすぐ横、つまり耳元に寝息が当たってくすぐったい。
なんとか抜け出そうと身動ぎすると
「くかっ…名前、んー。っかー」
「ね、寝言…」
声を発したものの全く起きる気配がない。大輝はまだまだ夢の中らしい。
それにしても…
夢の中でも私居るの?あはは、マイちゃんじゃなくて残念だったね大輝くん。
なんて考えていると、
ぎゅうっ
「う、ちょっと、苦し…っ!?」
突然強くぎゅっとされて更に密着した体。
そしてお腹の辺りにあった手がそのままスルスルと肩の位置まで上がり、閉じ込めるかのように抱き締められた。
「…名前…」
ドキッ
え…何、これ。
耳にぴったりと唇を付けた状態でそっと囁かれた私の名前。
脳に直接響くような低くて色気のある声に、心臓が跳ねる。
ど、どうしちゃったの。
なんか変。
コイツにドキドキするなんて!私ちょっと、いやかなりおかしいんじゃ…
「ちょ、と!大輝!」
「んん」
「大輝!!」
「…んあ?」
お、起きた!!良かった!!
さっきの妙な気持ちを振り払うように、ここから一刻も早く抜け出そうと体を動かした。
「ほら!起きるよ!どいて!」
「んー、だりぃ。あんま動くなよ、……お」
「え?何」
「…勃った」
「!!」
バッチーン!!!
ああ、
コイツの正体をすっかり失念していた。


「ちょ!ぶはっ!青峰っち、どしたの!」
「あ、青峰くん…」
「ああ?」
「あっははは!ほっぺ!ほっぺだよ!真っ赤!」
「青峰くん、何か名前さんを怒らせるような事をしてしまったんですか?」
「はぁ?何もしてねーよ!男の生理現象だっつの」
「えー!ちょっとなんか厭らしい!」
「…それで、名前さんは?」
「後から行くから先行ってろってよ。ったく、人のケツ蹴飛ばしやがってあのじゃじゃ馬。」
「あっはははは!名前、傑作だわ!」
「青峰くん。お世話になっている人にそんな事、失礼です」
「っだー、わーってるよ!しょーがねーだろ。…つかアイツがわりーだろアレは」
「…何か言いましたか?」
「あーくそ、なんでもねーよ!おいテツ、さっさとおっ始めよーぜ」
「あ、はい!」

はぁ…朝からアホ峰のせいで疲れた。
元はと言えば昨日飲み過ぎて潰れちゃった自分が悪いんだけど。
ベッドまで運んでくれた事には…まぁ、感謝しなきゃだよね。
それはさておき。
あのドスケベ、何私なんかに発情してんの。
あ、朝から盛ってんじゃないよ!私はマイちゃんじゃないんだから!
とりあえず先にストバスに行けと蹴り飛ばしてやった。
今頃テツくんとバスケしてるんだろう。
現在私は4人分のお昼のお弁当を作り終えて、もうすぐ出発する所。
どうせ午前中だけじゃ満足しないだろうと思ったから作ったのだ。
私のこの気遣い、褒めていただきたい。
大輝が家を出てから約1時間後、ストバスのある公園の近くまでやって来た。
ここはちょっと小高い歩道になっているので、すぐに3人の姿を捉える事が出来た。
すぐには向こうには行かずに、歩道脇の芝生の斜面に座って2人のバスケを見る。
…凄い。
やっぱり大輝は凄いプレイヤーなんだ。
改めて思う。
テツくんは漫画の通り、チームの中で発揮される力…大輝に翻弄されているけど。
2人共、楽しそう。
大輝もテツくんも、笑ってる。
汗を拭う大輝の姿がキラキラと光って見えた。
漫画で見る大輝とは違う、バスケを楽しんでいるような姿に、自分の頬が緩んでいる事に気付く。
元の世界に帰っても、あんな風に素直にバスケが出来たら良いのに。
そう考えてハッとした。
そうだ。大輝もテツくんも、いつかは元の世界に戻ってしまう。
そして更に私は気付く。
「今、寂しいって。帰って欲しくないって…思った?」







「おーい!何やってんだ名前!!」
「!い、今行く!!」

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