「じゃ、いってくるね」
「おー、残業すんじゃねーぞ」
今日は金曜日!
青峰も復活して私はいつも通り会社に向かう。
夏村さんの事を警戒してか、気をつけろだの早く帰れだの色々言ってくる青峰。
意外と心配性だ。
奏も元気になったって、さっき電話したらもう出社したらしい。
ホッとした。
昨日休んだ分仕事は山積みだったけど、なんとか定時に切り上げる事が出来た。
さっさと片付けてエントランスに向かう。
そして外に青頭を見つけて口元が緩んだ。
「よっ!大ちゃんお疲れ!」
「よ、じゃねーよ」
「あ、もう大ちゃんでいいんだ?」
「うぜえ!」
「あれ?どしたの、なんか荷物多くない?」
「ああ、テツとちょっとストバスしてきた」
「え!バスケして来たの!?」
「んだよ、そんな驚く事か?」
「やだ!私も行きたかった!」
「は?お前バスケ出来んの?」
「全然?見たいだけ」
「あっそ。明日も行くけどよ、来るか?」
「うん!行く!!やった!お弁当とか作っちゃおうかな〜」
「随分ご機嫌じゃねーか」
「え?だってあんた達のバスケが見れるんだよ?楽しみに決まってんじゃん」
「そ、そんな楽しみなもんでもねーだろ」
「楽しみだよ!私、あんたのバスケかっこいいと思うし」
「!?」
「あー!大ちゃん照れてる〜」
「っるせ!!」
青峰がバスケしてる所を見れるとは思ってなかったので嬉しい。
この世界に来てから1週間、バスケをやりたいなんて一言も言って来なかった。
高1の青峰は既にバスケがつまらないと思っている時期。
正直バスケをする事を勧めるのは気が引けた。
だから一度もやりたいかなんて聞かなかったし、ストバスの場所さえも教えようとも思わなかった。
やっぱり、心の奥底ではバスケが好きな気持ちは消せないんだろう。
この世界に来た事が、青峰のバスケ人生に何かプラスになればいいのにななんて思った。
今日はお酒を買って帰宅。
未成年の青峰には悪いけど、金曜の夜くらい大目に見て貰いたい。
ローテーブルに簡単に作ったおつまみやおかず、お酒を並べた。
Tシャツ短パンに着替えて完全にオフモードだ。
「お前よ、もっと女らしいかっこねえのかよ」
「家でまで気張る事ないでしょー、もうオフだよオフ!」
「あの夏村って男も、こんなヤツの何処がいいんだか」
「ん?何か言ったかね、大輝くん」
「んでもねーよ」
「さ!食べよう!いっただきまーす」
「…いただきます」
「お!ちゃんと言えるじゃないの、いい子いい子」
私の隣に座りいただきますをした青峰の頭を撫でると、不機嫌な顔でこちらを睨み付けて来た。
もうこの顔にも慣れたけど。
慣れれば可愛いもんだ。
青峰はいつもの様にひたすらガツガツと食べ続け、私は気持ち良くお酒を飲んだ。
正直お酒は強くはないけど、仕事をやり切った週末に飲むのはとても気持ちいい。
疲れてる分回るのも早く、既にほわほわと幸せな気分になっていた。
「おい、お前もう酔ってんのか?」
「全然?美味しくいただいてますけど〜」
「性質わりぃな、絡み酒かよ」
「あはは!大ちゃん飲めなくて残念だね、ぷはー!うまっ」
「はぁ?だからその大ちゃんってのどうにかしろよ」
「いいじゃん。じゃあ…」
「あ?」
「…大輝」
「!!!」
うわ、ちょ、青峰が赤面した!
気分が良くなってきたからちょっとからかって名前呼んでみただけなのに。
あれ、何コレどうしよ。
目が合ったまま逸らさないから逸らせないじゃんか。
「別に…」
「へ?」
「…別にもう青峰じゃなくてもいいけどよ」
「え」
「…」
「青峰?」
「っだぁーからよ!ちゃん付け以外ならどう呼んだっていいっつってんだよ!」
「わ、デレた」
「うぜえ!デレてねえ!」
「ふふ、嘘嘘!じゃあ、大輝」
「お、おう」
「大輝」
「んだよ」
「ふふ、だーいき!」
「うるせーな、聞こえてるっつの」
「大輝」
「っ」
突然グラリと視界が揺れたと思ったら目の前に濃紺の瞳と、その奥には天井。
…どうやらこれは「押し倒された」状況らしい。
「あ、れ…大輝?」
「…」
「お、おーい」
「おめーがわりぃんだからな」
「は?何言って…っ!ちょっ」
力強く抱き竦められて身動きが取れずにいれば、大輝の顔がどんどん近付いてきた。
焦って咄嗟に顔を背けギュッと目を瞑ると
…首筋に唇が触れた。
「ちょっ…と、大輝何して、あ」
「ん」
首筋にビリッと電気が走ったかのような感覚。
これは…
驚いてジタバタするが、こんな巨体に勝てるはずもなく。
続いて鎖骨の上をなぞるように唇が触れた。
「だ、大輝。ちょっと離れようか」
「んん、無理。はぁ…名前、お前、すげぇいい匂いする」
「ちょ!あんたどうしちゃったの!欲求不満解消の相手なんて御免なんですけど!」
「ん、ちゅ。…お前が、エロイ声で名前呼ぶのがわりぃ」
「は!?エロイ声ってな、あ、ま、待った!やめ…」
大輝のキスはどんどんエスカレートして、鎖骨、耳、肩と続いた。
そしてまさかのTシャツの裾から手が入り込もうとした所で…
ピンポーン
「やっほ名前〜!おーじゃまー♪」
「すみません、名前さん。お邪魔します」
ドタドタと足音が体に響き、ヤバイと思ったが時既に遅し。
バンッ
「名前、一緒に飲…も、う、」
「…あ、青峰、くん」
「ぎ、ぎゃぁああああああああああッ!!!」
ゴッ!!
「「ぐあっ!!」」
お互いのおデコがぶつかり合った。
カチ割れるかと思った。
いや、そんな事よりも!!
「や、やだぁ!テツ、私たちとんだお邪魔しちゃったみたい」
「そ、そ、そうれすね」
「おう、分かってんじゃねーか」
「い、いやいやいや!ちょっと2人共待って!おおおお落ち着いてそこに座ろうか!つかテツくん噛んでるし!大輝黙れし!」
「大輝って…。名前、あんた何時の間に名前で」
「ちょっとー!何から何まで誤解してるからとりあえず座ってお願い」
「あ、青峰くん。あの、まさか…」
「ああ?まだ何もしてねーよ」
「!まだ!?」
「ちょっと!大輝もう喋るな!っていうか手!いつまで腰触ってんの馬鹿!」
数分後、漸く落ち着きを取り戻した私たち(主に私)は、ローテーブルを囲んで飲み直していた。
奏は完全に面白がってる。
「青峰っち、野獣だね〜!いいよいいよ!名前に男を教えてやったらいいよ」
「か、奏さん、それはちょっと。青峰くん、無理矢理はいけないと思います」
「ああ?名前だって満更でもなかっただろ」
「あんた、力で捻じ伏せといてよく言うな!もう決めた!今日からあんたは床に寝る!決定!」
「はぁ?ざけんなよ。お前は俺の抱き枕だろ」
「契約解消じゃボケ!会社にももう来なくていい!1人でなんとかする!」
「馬鹿かおめーは。またあの男に捕まって今度こそヤラれんぞ」
「や、ヤラ!?あんたの方がよっぽど危険だわっ!!」
「ああ?うるせーな、もっかいされてーのか?」
「は!馬鹿じゃないの!!ぎゃ!ちょっと!近寄んないでよ!」
「…テツ、また始まったね」
「はい。奏さん、助けなくていいんでしょうか」
「いいのいいの。気が済むまでやらしとけば」
「はぁ。でも…なんだかんだで、微笑ましいです」
「ふふ。じゃあ、私もテツに甘えちゃおうかな〜」
「か!奏さん!?」
「この万年発情期が!」
「(…どうでもいいやつにんな事するかよ)」
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