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第13Q

「あ、そうだ黒子くん…」
「名前さん、あの…テツでいいです」


仕事後、4人でビュッフェに立ち寄って食事する事にした。
案の定、青峰は1人ガツガツと食べては取りに行きの繰り返しだ。
本当によく食べる。
青峰を除いた3人は、ゆっくりとお喋りをしながら食べている。
「じゃあ、テツくんで」
「はい(ニコ)」
「昨日はごめんね、青峰の事探させちゃって」
「いいんです、本当に気にしないで下さい」
「はぁ、テツくんてホントいい子だよね」
「でしょー?家でも色々お手伝いしてくれるんだよ、ね?」
「か、奏さんにはとてもお世話になっているので」
奏と話すテツくんは頬を染めていた。
きっと、いや間違いなく奏の事を好きになってしまったのだろう。
テツくんの表情がコロコロ変わるのを見るのはとても新鮮だ。
漫画では常になかなか心情を読み取れない表情だったのだから。
お皿に山盛りに盛り付けて青峰が帰って来た。
「おい、おめーら食わねーのかよ」
「食べてるよ。あんたが食べ過ぎなの」
「いや〜、青峰っちなら元以上取れるね」
「火神くんに負けてませんね」
「ああ?アイツと一緒にすんじゃねーよ」
「火神か〜、火神もかっこいいよね。あの赤黒の髪好き。あと先輩と話す時の無理矢理敬語!かわいいよね〜」
「確かに!あの後付けの敬語はかわいい!」
「んだよ、あんなヤツの何処がいいんだか」
「青峰くん、嫉妬ですか?」
「はぁ?わけわかんねーこと言ってんじゃねー」
「ちょっと、青峰。あっはは、ご飯粒付いてるよ」
「あ?」
「ほら、ここ」
「「「!?」」」
「…ん?」
「あ、青峰くん。顔が…」
ガタッ
「!!お!おかわりだ、おかわり!!」
「名前、あんたやるね」
「は、何。…え、あ、え!?」
わ、私今何した!
ちょ、皆顔赤くしてる!
おいおいおいおいおい!!
無意識に私とんでもない事した!?
青峰の口の横にご飯粒付いてて、取ってやって
…た、食べたね私。
青峰の食べ零し…食べたね!
カーーーッ!!
遅れて一気に顔中に熱が集まった。
「ちょ、わわわ忘れて!皆忘れるのだよ!」
「名前ちゃん、まさか毎日そんな事してるのぉ?」
「してない!してないから!ホント無意識だったんだって!」
「ちょっと!青峰っち向こうで頭から蒸気出してるよ、あっはっは傑作!」
「ま、真っ赤ですね。貴重です」
「はぁ…よく分かんないけど、私なんだかんだで弟が出来たみたいで嬉しいのかも」
「弟、ですか」
「弟、ねぇー」
「何、2人共その微妙な顔は」
「別にー」
「だって世話やけるし、喧嘩ばっかりだし。弟が居たらこんな感じなのかなーって」
「そこに恋愛感情は無いのかね?」
「誰だよ!あったら一緒に寝るとか無理でしょ、お互い」
「はぁ。まあ、そうか」
納得のいかないような顔をしつつ、奏はそれ以上追求して来なかった。
正直、追求されても答えは一緒だから困る。
『弟』…これが一番しっくり来る気がするもん。
向こうは『姉』だなんて思ってないだろうけど。
全く以って敬わないしね!
それでもやはりこの賑やかな毎日が自分に浸透して来ていて、きっと青峰が元の世界に帰る事になったら寂しいんだろうって思う。
まだ4日程度とはいえ、毎日寝食共にしてたのが居なくなっちゃうんだからね。
寂しくないわけない。

食事後、奏たちとは分かれ道でさよならした。
妙な沈黙が続いて居心地が悪い。
「ちょっと、何黙っちゃってんの」
「別に。満腹でだりーだけ」
「あ、そ。あー疲れた。早く寝たい」
「…あのうざってー上司、いつもあんなんなのかよ」
「そうだよ。仕事以外に凄い体力消耗」
「まあ、明日も俺がいりゃあ撒けんだろ」
「まあね。助かってるよ、ありがと青峰」
「気持ちわりーな」
「失礼なのだよ、素直になったと言うのに」
「だーからその喋りやめろ」
いつの間にか普段通り。
何故かホッとしている自分。
私と青峰は、やっぱこうじゃなくちゃね。


そろそろ本日も就寝の時間だ。
はい、抱き枕の時間です。
自分で言ってて悲しい。
今日は私が先に寝る準備が出来てたので、お布団一番乗りだ。
自分のベッドだというのに何この久しぶり感!
寝転がってごろんごろんしていると、ドアが開いた。
「…何してんだ、おめーは」
「ん?布団は最高だなーと」
「まじで女かよ、何転げ回ってんだよ」
「いいじゃんか、気持ちいいんだから」
「あっそ」
「よし。はい」
「は?」
もう寝るのかと思い、ベッドを半分開けて布団を捲った。
当の青峰はポカーンとしてる。
あっはは、アホ面!
「え?寝るんじゃないの?」
「…おー、寝んぞ」
開いたスペースを凝視しながらこっちへ来る青峰。
なんか変。
そしてギシリと音を立ててベッドに膝を付いた所で、1人首を傾げている。
いったいなんだというのだよ。
「おーい、青峰くーん」
「!…あ?」
「寝ようよ、もう私眠い」
「おう」
漸く布団に入り、横になった。
けど何が腑に落ちないのかずっと変な顔をしてる。
それからゆっくりと体ごとこちらを向いた。
私の目と青峰の鋭い目がかち合う。
「何?どしたの」
「…」
「ほら、寝るよ」
こんな青峰は見た事が無いので正直戸惑ってはいるが、自然と手で青峰の頭を撫でていた。
所謂、いい子いい子だ。
未だポカーンとしている。
「ホントにどうしちゃったんだ、しょうがないな」
「!」
そこからの私はもう本当に流れるように自然に動いていた。
撫でていた手で青峰の頭を自分の方に引き寄せ、背中をポンポンと叩いた。
怒って飛び起きると思ったが、意外にもされるがままでいる青峰。
少ししたら、ゆっくりと青峰の手が私の腰に回った。
いつもみたいに乱暴じゃない。
「寝るの?」
「ん」
「ふふ、変なの。今日はあんたが抱き枕だね」
「…」
「おやすみ」
「…おー」
それから暫くして、青峰の寝息が聞こえてきた。
ぐっすり眠ったらしい。
なんだったんだろうか。
いつも喧嘩してるのに拍子抜けだ。
青峰の規則的な寝息に誘われて私も眠くなってきた。

おやすみ、青峰。


「青峰っち、帰り様子変だったよね?」
「はい。何かあったんでしょうか」

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